前立腺肥大症の新しい治療法 Indigo830

 

Indigo830の使用経験
----導入後の経済効果も含めて

はじめに|装置治療方法結果考察

経尿道前立腺切除術(TUR-P)についての解説

はじめに  -------------------------------

 前立腺肥大症(BPH)の手術療法としては、経尿道前立腺切除術(TUR-P)がゴールドスタンダードといわれている。TUR-Pは、経験豊富な泌尿器科医のもとでは優秀な成績を上げているが、術中、術後の出血や逆行性射精、勃起障害などの合併症はなくなっていない。

 これに対して、近年いわゆるmicro-invasive-surgeryとしてマイクロ波、ラジオ波、レーザー光線を尿道から照射する高温度治療や経尿道的直視下レーザー前立腺切除術(VLAP)など様々な治療法が登場してきた。こういった中で、経尿道的にレーザー照射用のファイバーを前立腺に穿刺しYAGレーザーやダイオード・レーザーを肥大症に組織内で照射して高温度加温し、肥大組織の凝固壊死と二次的吸収収縮を目的とした組織内レーザー凝固術(ILC)の良好な成績が報告されている。

 当院においても、高温度治療とレーザー治療が健康保険の適用となった96年から、VLAP療法、マイクロ波による高温度治療、プロスタレーズによる高温度治療などの新治療を導入してきた。これらの治療法もそれぞれ一定以上の有効性を示したが、尿流率などの客観的評価項目についてはTUR-Pに比較してかなりの差を認めた。そこで98年3月に、低侵襲でかつTUR-Pにせまる有効性を持つと考えられる、ダイオードレーザーを使用した「インディゴ830」を導入し、ILC治療を開始した。今回、これまでに経験した症例について検討したので報告する。

 対象は99年4月の時点で術後3ヶ月以上経過した120例で、平均年齢は69・8歳であった。治療の目的からILC治療を選択した症例は高温度治療に比較して、前立腺体積は大きく、残尿は多く、尿流が不良の、ILC導入以前にはTUR-Pを選択するような例が多かった。心血管系の合併症を持ち、TUR-Pにはハイリスクは症例も含んでいる。

 

「インディゴ830」

装 置  -------------------------------

 ILC治療に用いたのは、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル社の半導体レーザー「インディゴ830」である。波長は830nmの連続波で、近赤外線域に属し、止血・凝固にすぐれているとされている。

 装置は長さ34.3cm、幅16.5cm、高さ40.0cm、重さ12.7kgとコンパクトで、操作も簡単で光学的にも安定している。レーザーの導光路であるディフェーザブルチップファイバーは、長さ3.15m、外径1.8mmで、組織の穿刺用に先端は鋭利な角度がついており、ファイバーの先端近くにある長さ1cmのチップから楕円ボール状にレーザーを照射し、照射範囲は2cm×2.5cmである。レーザー装置には温度センサーが内蔵されており、穿刺されたファイバーの周辺の温度をモニターしている。

 エネルギーモードは1回の穿刺で3分間、最高85度まで過熱されるようプログラムされ、1回の穿刺で5〜6ccの組織の凝固壊死が得られる。

 また、組織の炭化を防止するため、100度を超えると自動的にレーザー出力が停止する。

 

 図2 ILCP治療イメージ

 術中写真

治療方法  -------------------------------

 麻酔は1例を除き、サドル麻酔で行った。内視鏡は21FRの外管と尿管カテ用のデバイスを使用した。経直腸超音波検査により前立腺体積を測定し、膀胱内と前立腺部尿道を観察後、レーザーファイバーを挿入し、精阜のやや近位より始めて測葉に向けファイバーのデプスマーカーをメドに穿刺し、照射を行った。(  図2)。

 当所、穿刺は片側2ケ所ずつの4ケ所としていたが、その後は前立腺体積の大きいものについては穿刺を追加している。必要であれば中葉も穿刺している。モニターの温度の上昇が不十分な場合は、その場所で追加の照射も行った。治療後の閉尿はほぼ必発であり、当所は尿道留置カテを使用していたが、抜去可能な時期がわからず刺激もあるため現在は前例10FRの膀胱瘻にて管理している。術後に血尿のある例、ハイリスクの症例を除き、一泊二日の入院とした。最近、頻用されている抗凝固薬は術前後とも使用した例はなかった。

 

表1 治療パラメーター

穿刺回数:2〜7回(平均4.19回)

手術時間:9〜44分(平均17.3回)

入院期間:2〜8日(平均3.0日)

カテーテル留置期間:1〜22日(平均8.9日)

 

表2 治療成績

 

治療前
治療後
I-PSS
19.1
6.8
最大尿流率Qmax(ml/sec)
9.9
17.7
平均尿流率Qave(ml/sec)
4.7
8.0
残尿率RUrate(%)
31.1
5.6
推定前立腺体積PV(ml)
35.3
24.2

 

結 果  -------------------------------

 治療パラメーターは表1の通りで穿刺回数は平均4.19回、手術時間は平均17.3分、入院期間は平均3.0日、カテーテル留置機関は平均8.9日であった。

 ILC治療3ヶ月以降の観察項目のデータは表2の通りで、I-PSSは19.1から6.8と35.6%に減少した。

 Qmaxは9.6ml/secから17.7ml/sec、Qaveは4.7ml/secから8.0ml/secへと有意に改善し、RUrateは31.1%から5.6%と18%に減少した。前立腺体積は35.3mlから24.2mlと68.5%に減少していた。術後の尿道造影で明らかなcavity形成が認められた例は多くはないが、図3のごとくTUR-P後の尿道造影と比較しても遜色のない著効例もあった。治療効果が不十分でTUR-Pの移項した例は2例のみであった。

 副作用として、術後軽度の血尿や尿道出血が遷延する例が25.2%に見られた。これらの持続期間は2〜33日(平均23.6日)で、抗凝固薬との関連はなく、原因は不明である。精巣上体炎を1例で認めたが、抗菌薬で改善した。TUR-Pで経験する術中の大出血、低Na血症や、術後の失禁、勃起障害、逆行性射精は皆無であった。また、本治療では尿道粘膜が温存されるため、術後の刺激症状は軽微であった。

 

 図3 治療前

 図3 治療後6ヶ月

考 察  -------------------------------

 96年4月に高温度治療とレーザー治療が健康保険の適用となって以来、様々な機器や治療法が登場してきたが、以来3年を経過し治療の再評価の時期となってきている。高温度治療は、尿流測定などの客観的データは TUR-Pと比較すると十分な効果を上げているとはいえない。しかし、外来で簡単に治療することが可能であり、治療による副作用や合併症もほとんど皆無である。しかもI-PSSなどのデータは良好で、頻尿、切迫性尿失禁にも効果を認める例が多い。有効期間などでTUR-Pと比較するのはナンセンスで、BPHの治療法としては別のカテゴリーと考えるべきだろう。

 一方今回検討を加えたILC療法は、他の施設の報告と同様に、尿流量測定、残尿率、前立腺体積という客観的評価からも十分な有効性が認められた。これは、高温度治療が各種電磁波を尿道から遠隔的に照射して前立腺組織を発熱させるのに対し、組織内で直接的にレーザーを照射するため確実に組織の凝固壊死が得られることが原因であろう。

 また「インディゴ830」は組織内部の温度をモニターし、リアルタイムに表示する赤外線センサーを内蔵するという他にはない特長を持っている。このため目標とする85度に加温されているかを確実に知ることができ、ILC治療の有効性を確実にしている。

 このモニターを通して治療中に判明したのは、同一症例においても穿刺部位によって温度の上昇にかなりの差があるという点であった。この原因としては、組織内の血流状態の差が考えられるが、高温度治療においても期待される組織の加温が得られず、症例間で有効性に差が出てくる可能性が示唆される。

 治療後における問題点としては、術後の尿閉が上げられる。今回の検討でも、最長で22日、平均8.9日のカテーテルの留置を要した。当院においては、TUR-Pの入院期間は約7日間であり、むしろILC治療より早く排尿の改善が得られる。

 しかし、膀胱瘻は挿入されていても、入浴などの日常生活や肉体労働も十分に可能であり、多くの例で治療翌日から社会復帰を果たしている。尿道内ステント留置も試みたが、抜去時の苦痛が強い。欧米では吸収性のステントの報告があり、この点が解決されればILC治療の普及はより進むであろう。

 最期に経済効果について検討する。TUR-Pの診療点数1万2000点に対し、ILC治療は2万3700点であるが、当院におけるTUR-P症例の1週間入院の点数と、ILC治療例の一泊二日入院の点数はいずれも3万点代でほぼ同等である。したがって1症例当りの医療機関の収益は同じとなるが、これに費やす人的、時間的コストを考えるとILC治療の医療機関における有益性は明らかである。

 さらに患者サイドにおいては、治療翌日からの社会復帰が可能な点からILC治療の優位は動かない。仮に日帰りTUR-Pを行ったとしても数日以上は、復帰は困難である。またILC治療に比較してTUR-Pは術後合併症が加わる可能性が高く、こういった場合さらにコストは上昇する。

 「インディゴ830」によるILC治療について検討してきたが、本治療は高温度治療などとは一線を画した客観的な有効性を持ち、BPH治療としてはTUR-Pに伍する効果とこれを上回る安全性、経済性を持つ治療法と考えられた。

 

高山泌尿器科がお送りしています