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FTAが農家を弱く 酪農学園大・柳京熙准教授インタビュー

  • 2016年12月5日 13時40分

米韓FTA後の韓国を例に2国間貿易交渉の先行きに警鐘を鳴らす柳准教授

米韓事例に「2国間」警鐘
 米国のトランプ次期大統領がTPP(環太平洋連携協定)の離脱を明言し、代わりとして浮上している2国間のFTA(自由貿易協定)。隣国の韓国では2012年に米国との間で発効し、さまざまな分野でその影響が報告されている。韓国内の農業問題に詳しい酪農学園大学の柳京熙(ユウ・キョンヒ)准教授(農業経済学)はインタビューに応じ、米韓FTAを先例として、2国間貿易交渉がもたらす変化に警鐘を鳴らしている。(安田義教)

 トランプ氏はTPPが米国にとって不利だと言っている。日米間の貿易交渉になれば、目に見える形の結果を求め、TPPの内容から日本がさらに譲歩させられる状況に巻き込まれる。

 (TPPのような)多国間交渉の方が2国間交渉よりも有利に進められる。日本政府はこう考えていたが、TPPの結果をみるとそうだったのだろうか。米韓FTAの内容と比較するといい。私にはそうは思えない。

投資できずに
 米韓FTAの後、農業でいえば乳製品の輸入量が増え、米国がニュージーランドを逆転した。果実ではオレンジやブドウが増え、国内の生産量は減った。為替や国内経済の後退もあるので、純粋にFTAだけが原因ではない。ただ、その流れの中で悪くなっているといえる。

 特に農家は希望が持てなくなった。WTO(世界貿易機関)交渉の時は国からの補助もあって前向きだったが、今は違う。積極的な投資ができず、施設更新のときにやめてしまう。価格競争で敗れて弱体化し、さらに海外の影響を受けやすくなった。

 貿易の自由化が遅く、BSE(牛海綿状脳症)などの問題も起きた韓国は、日本に比べて食には保守的だと言われてきた。しかし、いざふたを開けると、抵抗感なく受け入れられている。

恩恵は一部企業
 FTAでは輸出が増え、経済が良くなるといわれてきた。輸出が増えて潤ったのは一部の大企業で、一般の企業に恩恵はない。むしろ所得格差の問題が起きている。

 日本のGDP(国内総生産)に占める輸出の割合は15%。より割合の高い韓国でも良くならないと証明されているのだから、日本でも予想できる。自動車製造など工業国だから輸出を伸ばし、そのために農業は譲る。その構図は韓国とうり二つだ。

 FTAを契機に国内のルール作りも変わった。例えば遺伝子組み換え食品の輸入は、国内の法律が簡素化された。

 第三者機関による検査は必要なく、過去に輸入実績のあるところは認められるようになった。FTAでは遺伝子組み換えについて、細かく書かれていない。しかし、それが国内で変わってしまう。

 理解しにくいかもしれないが、交渉では「文書に書かれたことは守る」が、言い換えれば「書かれていないものは守られなくてもいい」ということ。米国も不利なことを、わざわざ文書に書くことはしない。しかし、米国の意をくんで変えてしまう。そんなことはあり得ない、と日本側は主張するが、実際に韓国では起きている。

「もうけ」のため規制緩和
 (韓国で問題となっている)水道と医療の民営化もFTAには書かれていなかった。WTO交渉の内容を順守して引き続き交渉する、とだけ簡単に書かれている。しかしその後、法律が変わった。誰が変えたのか。米国ではなくて国内の動きだった。

 米国でも韓国でも、資本は金をもうける法則で動く。どちらも厳しい法律はない方がいい。日本と同じくこれから金を生み出すのは公的な分野。電気や水道、医療、金融機関など。それがFTAをきっかけにハードルが下がり、法律が変わった。TPPを喜んでいる国内資本がある。

 自由貿易でもうかるのは、青い目で金髪の外国人だけではない。資本の性質は同じで、国内対海外という目だけで見てはいけない。

 日本では全農をつぶすという話をしている。韓国でもFTA交渉の後に農協改革が出てきて、その状況と重なる。新たな資本を入りやすくする。韓国で全農に当たる組織は、現在は持ち株会社になった。FTAによって農業資材が安くなるといわれた。しかし実際は安くなっていない。

 小泉純一郎元首相が日米FTAはやらないと言い、米国は韓国と“練習試合”をやった。それがうまくいった。日本政府は今後、TPPの「追加交渉」というかもしれない。しかし、それは追加ではなく、白紙に戻してより厳しい交渉を強いられる「再交渉」だろう。その内容は米韓FTAがベースになる。いかに日本にとって有利に進めるかはこれからの知恵にかかる。

 日本と社会的な仕組みが似ている韓国の状況をよく見極めることが必要だろう。


<柳京熙(ユウ・キョンヒ)>
 1970年、韓国・ソウル市出身。99年北大大学院農学研究科博士後期課程専攻修了。科学技術振興事業団特別研究員、JA総合研究所主任研究員などを経て2011年4月から現職。著書に「韓国のFTA戦略と日本農業への示唆」(筑摩書房)など。

<米韓FTA>
 米韓自由貿易協定。2006年2月に交渉開始宣言し、07年4月に交渉妥結。12年3月に発効した。農業をはじめ、自動車、繊維、医療、金融、労働など項目は多岐にわたる。関税の撤廃や規制緩和などを盛り込み、貿易の自由化を図った。

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