十勝毎日新聞社ニュース
生還者が伝える教訓 トムラウシ山遭難事故から3カ月
自分で身を守る準備を
戸田さん 前田さん
本州からの中高年登山ツアー客ら8人の命が失われた大雪山系トムラウシ山(2141メートル)での遭難事故(7月16日)は、16日で発生から丸3カ月がたった。国内の夏山史上最悪といわれる惨事の後も同山への入山者は後を絶たない。悲惨な事故を二度と起こさないためにはどのような対策が必要か。遭難したツアーに参加し、命からがら自力下山した戸田新介さん(65)=愛知県清須市=と前田和子さん(64)=広島市=の体験から、主にツアー登山への教訓を探った。(植木康則、藤原剣)

登山時に着用していた装備品を手に遭難時の様子を振り返る前田さん
睡眠取り、防寒・食は携行
危険と背中合わせの「登山」と観光感覚が漂う「ツアー」という2つの単語を合わせた「ツアー登山」。地元登山家の間には観光気分での山登りに対する批判は根強い。しかし戸田さんは「ツアー登山はなくならないと思う。これが現実と認めた上でどう安全を考えるか」と語る。
2人に共通する主張は、登山の基本ともいうべき「自分で身を守る準備の大切さ」だ。具体的に2人が取った対策は(1)十分な睡眠確保(2)携行食はすぐ食べられる所に(3)早めの防寒対策−だった。前田さんは、生死を分けたのは、ヒサゴ沼避難小屋2階で早めに床に就いたことだと考えている。眠れたおかげで翌日も早足で下山するガイドについていけた。「ほかの人も2階で休んでいれば、違った結果になっていたかもしれない」
携行食は各自持っていたが、戸田さんは前日の雨中の山行で、リュックサックから出して食べられなかったため、非常食をかっぱのポケットに入れておいた。前田さんもポケットに入れたキャラメルやあめを時折、口にした。
防寒対策では、死因が全員凍死だったため「軽装備」を指摘する報道があった。戸田さんは「下着までは分からないが、全員防寒対策は取っていた」と反論する。ただ、低体温症の知識がなく「待たされた間に判断力が低下し、自分でリュックから取り出して着られなかったのでは」と対応の遅れがあったとみる。
今回の遭難事故を経て、戸田さんは「ツアーでは自分1人では帰って来られないことを念頭に行動すべきだ」と訴える。ツアーは個々の力量が異なる上、団体行動のため遅れた人を待つこともある。今回のように夏山で低体温症になるのはまれなケースとみられるが、「リーダーとなるガイド次第で『待たされる』こともあると考え、対策を取る必要がある」と感じている。

地図を見ながら遭難時の状況やツアー登山参加への心構えを語る戸田さん
戸田さんは、職業としてのツアーガイド基準の厳格化・標準化も強く求めている。
今回のガイドは「天気の良い時のノウハウでやっていた印象。修羅場(悪天候)のシミュレーションをしていない」。新千歳空港までの機内で隣り合わせだった38歳ガイドは戸田さんに「今回は会社が夏休みの代わりに与えてくれた」と語り掛けたという。「ガイドは仕事。客ではない。この意識はどうなのか」
新得町は2010年度国立公園等整備費の概算要望調査で、避難小屋やトイレ設置などを7月末に要望した。「聞いた時は、本当にうれしかった」と前田さん。途中にもう1カ所避難小屋があれば、救える命もあったのではという思いが強いからだ。
ただ「安易な本州ツアー客を増やすだけ」との反発もある。戸田さんによると、今回のツアーを企画したアミューズトラベル(東京)もヒサゴ沼避難小屋に次から次へとツアー客を入れていたという。「だから悪天候でもガイドは下りることばかりを考え、30分だけ出発を遅らせるという『意味のないこと』をしていた」と戸田さんは推測。避難小屋に頼らない、ゆとりのあるツアー選択と、登山に対する自覚が参加者には求められる。



