自然破壊避ける登山を

★沢から入る★

日高山脈に、十勝側の沢から入ることにした。日高(新冠町)側の登山道から幌尻岳(標高二〇五二・四メートル)に登るルートは、七月の大雨でふもとの道が崩れたというので、やめた。
日高側の登山道は、近年の「日本百名山」「中高年」の登山ブームのため、自然破壊が激しいという。その実態を見たい気もしたが、多くの人によって踏み荒らされた登山道を、取材する私自身も歩くことによって“破壊”に加担することは、避けたかった。
沢伝いに日高の稜(りょう)線までよじ登ろう。疲れる、危険も伴う方法だが、自然への負荷は、いくらか少なくて済むだろう。

■    ■    ■

photo
全身ずぶぬれになりながら滝をよじ登る(戸蔦別岳Aカールで)
日本人の登山ブームは、各地で山の自然を壊している。今回、一緒に山に行った渡辺悌二・北大大学院地球環境科学科助教授は、大雪山国立公園・黒岳の登山道浸食を調べている。一九九〇年から七年間の調査で、人が踏み分けた道が雪解け水などで浸食される様子を明らかにした。
登山道の浸食防止のため木道の整備も進むが、その木道工事のために、周囲の高山植物群がさらに広範に壊された例もあるという。
登山者は「自然を愛する人々」だと信じたいが、現実には「自然破壊の先兵」ともなりうるのである。このジレンマをどうするか。

■    ■    ■

戸蔦別川林道(途中何カ所もがけ崩れで途切れている)から徒歩で、沢に入る。ごろごろした石の上を、フェルト底の沢靴でひたひたと歩く。石の下は急流。
体力のない、技量のない私は、石から川にザブンと腰まで落ちる。すねはあざだらけ。次第に傾斜がきつくなり、滝をよじ登る。
三点支持(両足、両手のうち三つの支点を確保しながら慎重に移動する)で動くが、一つ間違えれば、滝つぼに落ちる。
頭の上にザーザーと水が落ち、背中の二十キロの重さのザックにのしかかる。前を行くK君、A君が、水流に頭をのみ込まれて、息ができずにいる。意を決して、向こうのがけに跳び移った。私もそれに続いたが、がけからずるずると落ち始めた。リーダーのSさんが差し出したロープにしがみついて、ようやくはい上がった。

photo
最後の山岳秘境と言われる日高山脈にも、「日本百名山」の異常なブームが押し寄せている。自然破壊を防ぐには、どうすればよいのか…

■    ■    ■

全身、ずぶぬれ。疲労と脱力感。しかし「オレは(まあ正しい方法で)日高を登っている。登らさせてもらっている」という満足感がある。沢は増水すれば、石・岩がごろごろと移動する。その道なき場所を伝って登るのであり、「登山道の破壊」には、あまり加担していない。
楽をして、急いで、安易なルートで登るから、自然を壊すのだ。「自然をなるべく壊したくない」と志す者は、体力をつけ、装備を整え、技量を磨き、自然の知識を身につけ、ルートを選び、時間をかけ、苦心・苦労して、「これでいいのか」と考えながら登ることだ。
そんなことを、まず日高山脈に教えてもらった。 (日高山脈取材班=横田光俊)



■    ■    ■

北大大学院地球環境科学研究科の調査グループが十六日から十九日、日高山脈の最高峰・幌尻岳の頂上付近などに温度計を設置した。十勝毎日新聞社は創刊八十周年記念事業でこれを支援、同行取材した。



|1|2345

INDEX