勝毎ジャーナル
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ムックリ演奏伝承者

安東ウメ子さん(65)=幕別町在住


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民族衣装を身に着けムックリを演奏する安東さん(帯広市民文化ホールで、写真・折原徹也)
安東さんは、幼いころに聞いた母の音色をずっと追い求め続けている。

「いろりを囲んで夜ごはんが済んでから“母ちゃん、ムックリ聴かせて”とせがむの。ムックリを弾くのは呼吸が大変だから、母ちゃんは“もうこわい”と言うんだけど、もう一回とせがむと、“そしたらレプテ(鳴らす)するか”と言って、また弾いてれた。私はひざまくらして母ちゃんののどが大きく動くのを見上げていたんだよ」。

安東さんはアイヌの人々の集落、伏古コタン(西帯広)に生まれ育ち、祖母、母が話すアイヌ語の中で育った。母を十八歳で亡くした翌年、チロットコタン(幕別町千住)の安東家に嫁いだとき、隣家のおばあさんが「そんなに好きなら持っていきなよ」と、ムックリをマキリ(小刀)で手作りしてくれた。

ムックリはアイヌ民族に伝わる長さ十五センチ、厚さ二ミリほどの竹製の口琴で、ひもを手で引いたときに弁が出す振動を口の中で響かせ、息遣い、舌の動きで音を出す。メロディーはない。単調な音のつながりに感情を込めたときに、心に深く染みる幻想的な音色になる。そういう演奏ができる数少ない一人が安東さんだ。演奏する日が近づくと、体調を整え心が晴れるように自分を持っていく。体、呼吸、心が整わないとできない難しい楽器だという。

「母ちゃんの音は、うれしさというか悲しさというか、心が勇気づけられるような何とも言えない気持ちが込み上げるものだった。自分の耳の中では、今も聞こえている」。(政経部=山本 薫)(1998年10月20日紙面より)






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