境界の風景[9]
第1部「心の病をめぐる日常」

★不安訴え電話相談★

「何となく不安で眠れない。だれかと話がしたい…」

音更リハビリテーションセンターの当直室には、毎晩8時から10時ころになると、地域に住む障害者からそんな電話がくる。「援護寮があるから当直していますが、仕事内容はむしろ社会生活をしている障害者の電話相談が主になっている」(東端憲仁所長)という。

相談は「眠れない」と訴える人が1番多いが、「スーパーで買った物を交換に行ったら、変な目で見られないか」など、自分の行動が社会生活の中で奇妙に映らないかと心配するケースも少なくない。

同センターの井口洋司指導訓練第2係長は語る。

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音更リハビリテーションの当直の電話には
毎晩のように相談の電話がかかってくる

「心の病を持つ人は自分は、人とはちょっと違うという自覚を持つ。こんな行動をしたら、変な目で見られるんじゃないかと気にしている」

病院を退院し、社会復帰した人々はどんな思いで地域で暮らしているのだろうか。

精神病患者の自殺率は高い。「障害を持ったために耐えきれずに死んでいく。分裂病患者の自殺率は健常者の10倍以上と言われている」と伊藤哲寛道立緑ケ丘病院長は話す。

これまでに同センターを退所した人は約200人。うち、自殺者は10人近くに上る。「地域の中で孤立して…。だれか身近に相談する相手がいると違うと思うんですけど。その意味で、電話相談は非常に重要な業務なんです」と井口係長は語った。

帯広ケアセンターでは、スタッフが通所者に自宅の電話番号を教えている。深夜に電話が鳴ることもあるが「そうしなければ彼らを支えることはできない」と帯広ケアセンター所長の門屋充郎さんはいう。

心の病を持つ人が退院後に生活をする場所はさまざまだ。共同住居、支援下宿…。病気を隠し、一般アパートに入居する人もいる。彼らは、偏見の根強く残る社会の中で、病気が再発しないように生きていかねばならない。

障害者を支えるために「洗濯や食事など生活の身近な問題にに困ったときに手助けしたり、相談に乗ったりする施設が必要」(帯広保健所)という声が関係者の間で高まっている。“駆け込み寺”的なこうした施設は生活の場である身近な地域にあることが望ましいという。

だが、管内でも街の中に精神障害者の施設を造るときは、たいていは住民から批判が起こった。

「法律は変わり、時代は変わっても、その住民の論理は今も昔も全く変わっていない」

門屋さんをはじめ関係者に会っていると、だれからもそんな声がもれてくる。(後藤一也)


★メ モ★

同センターの95年度の電話相談件数は3,062件。午後5時から翌朝の8時半までの時間外の相談は全体の48.5%を占める。

相談者は退所者が30.9%、現在通所している人が29.1%。通所経験はないが、回復者クラブなどで同センターの職員と知り合いになり、電話してくるケースも少なくない。

不安を訴え、一晩に21回も電話をしてきた人もいるとか。「水道の凍結やお金のおろし方が分からないなどの生活上の悩みもあるが、やはり漠然とした不安を訴える人が多い」(井口係長)。


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