勝毎ジャーナル
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危ぐされる次世代への影響

母乳の危機

便利で快適な現代生活に欠かせない化学物質が今、生命システムへの大きな脅威として注目されている。「環境ホルモン」と呼ばれる一部の化学物質は、生体内に取り込まれると、ホルモン本来の働きをまねたり、かく乱したりすることが次第に明らかになってきた。その影響は子孫を残す生殖系を“直撃”する−と多くの科学者が警告を発している。人類がこれまでに生み出した化学物質は千三百万種ともいわれ、地球上に汚染されていない地域は存在しない。「環境ホルモン」汚染を十勝から検証する。

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子供の成育に不可欠な母乳にも環境ホルモンが忍び寄る。子供たちの未来のためにも対策を講じる時期に来ている
「自分のおっぱいの中にこんなに有害な物質が含まれているなんて、ショックでした。でも、だからといって母乳をやめようという気にはなれなくて…」

十勝毎日新聞社は昨年十二月、管内の母親十五人の母乳に含まれるダイオキシン濃度を調査した。その結果、日本の平均よりも低い数字ではあるが、十勝の母体もダイオキシンで汚染されている事実が明らかになった。

しかし、母体を汚染していたのはダイオキシンだけではなかった。

免疫活性高まるとアトピー皮膚炎に

九州大学医療技術短大部の長山淳哉助教授のグループが九州地方の女性八十二人の協力を得て、母乳の汚染状況を調べた結果、ダイオキシン類や農薬の成分を多く検出した。そのうち、環境ホルモンと疑われるDDT、BHC(ヘキサクロロシクロヘキサン)はダイオキシン類の一万倍近い濃度だった。

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九州大学医療技術短大部の長山淳哉助教授
また、生後約一年の乳児の血液で免疫系への影響を調べたところ、母乳からのダイオキシン類の摂取量が多いと、免疫活性が高まる傾向が示された。免疫活性が高まると発症する病気にアトピー性皮膚炎がある。長山助教授は「ダイオキシン類、DDT、その代謝物が免疫系に影響を与えている可能性はある」と指摘。さらに、「生後一カ月以内に六、七%がアトピーと診断されている統計もあり、母乳だけでなく、胎児期に胎盤を経由して影響を受けた可能性もある」とみている。

環境ホルモンが何よりも恐れられるのは、汚染の影響が“世代”を超えること。母体内に蓄積された化学物質が、胎盤や母乳を通じて、次世代に回復不能の影響を与える疑いが強い点だ。「胎児への影響はわれわれ大人が受けるものとは質が違うと考えるべき。胎児期、乳児期を最優先に毒性評価をし直さなければならないのではないか」と長山助教授は考える。



WHO勧告踏まえ母乳保育を推進

だが、このように母乳中の環境ホルモンの存在が明らかになった現状でも、母乳保育は推進されている。母子のコミュニケーションや栄養などの面で優位性があるからだ。

環境庁の報告でも世界保健機関(WHO)の勧告を踏まえ、母乳保育を適当と判断。また、市内の産婦人科などでも積極的に母乳保育を勧めているところがほとんど。「産婦人科としては強い関心を持っていますが、はっきり(環境ホルモンと母乳の関連性が)断定されないうちに動くと混乱を招くので、今は厚生省の動きを見守っている段階です」(帯広厚生病院産婦人科、津村宣彦主任部長)との意見が大勢を占める。

母乳か人工乳か−。これが二者択一では片付けられない問題である以上、今課題とされるのは母体、母乳の汚染にどのように対応すべきかということだ。


既に危険を知る母親たちは、環境ホルモンを含むとの疑惑が持たれるプラスチック容器の使用をやめたり、食べ物に気を付けたりと、身近なところから“手探り”で自衛策をとり始めている。

海外では賛否両論はあるものの、母乳を与える時期をできるだけ短くする指導も行われている。

長山助教授は「胎児や子孫への影響が明確に観察されたときには手遅れの可能性がある。疑わしい場合には対策を立てることが必要ではないか」と提言している。(環境ホルモン取材班)

<環境ホルモン>=内分泌かく乱化学物質。生物の体内に取り込まれるとホルモンと似た働きをし、本来のホルモンの作用を乱す。ダイオキシンやポリ塩化ビフェニール(PCB)類、農薬、プラスチック可塑剤、合成洗剤、金属など、約七十種類がリストアップされている。生殖器官への影響が世界中の野生動物などで報告され、人間への影響も懸念されている。


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