共育キーワード

札幌市教育長 土橋信男氏の視点 【5】


★生きる力が希望を生む★

さまざまな世界に触れて


<新学習指導要領について>

日本の教育も先進国並みに
 学習指導要領はそもそも「いい学校」に入るためのものではない。授業時間数の削減で学力低下を心配する親もいるが、そんなものは「来ないオオカミ」に戦々恐々としているだけ。先進国はとっくに皆、学校週5日制。日本の教育も、やっと先進国並みになる。勉強に明け暮れて「いい学校」に進んでも、いざ社会に出たとき一体何の役に立つのか。
 21世紀の日本の子供は世界から信頼され、尊敬される人間を目指さなければ。受験に臨む力は主に、記憶力を測る力に過ぎない。試験は単なる振り分けの道具。学校週5日制の目的は、子供も教師もさまざまな世界に触れてほしいということ。土曜日に塾や予備校に通っていては意味がない。

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<子、親、学校が変わっていかねばならないこと>

教師が常識や人間の幅失う
 家の手伝いは、しつけを身に着ける。少子化の影響もあって、今の子供は家の手伝いをしないが、させようとしない親が一番悪い。家庭科の実習で、初めて包丁を握る子供がいるなんて情けない。親が家の仕事を子供に割り当てることで、しつけの基本ができる。
 今の子供は自己中心的でドライだが、素直。先生のことをよく見ている。学級崩壊を起こす先生に足りないものは、子供を愛する気持ちと人間的な魅力。子供たちにうれしいことがあれば一緒に喜び、悲しいことがあれば一緒に泣ける先生。それは寺子屋の時代から変わらない。
 ただし、教師である以上はプラスアルファの部分で、勉強を上手に教える技術と子供たちの悩みを聞いてあげられる、いわゆるカウンセリング能力が必要。いい先生はこれらを自然に身に着けるが、そうでなくても訓練によってできるようになる。教師の一番の問題は、教師の世界に入ると子供とだけの世界に閉じこもり、社会常識や人間の幅を失ってしまうことだ。

<あなたが考えるこれからの教育キーワード>

個々に力備え「共生」が機能
 生きる力が希望を生む。村上龍の小説「希望の国のエクソダス」で、元不登校中学生の主人公が「この国には何でもあるが、希望だけがない」と演説する場面がある。将来への希望がないのは子供たちばかりでなく、日本全体にいえること。最近、中国人留学生が「日本に行ったら生きる力が奪われる」と言っていたのを聞き、ショックを受けた。
 個々が生きる力を備えることで、21世紀のキーワードである自然環境、世界の国々などとの「共生」のシステムが立派に機能する。生きる力は「いい暮らし」をするためのものではない。今の子供たちは「いい学校」に入ることだけを考え、先生も「この子たちに日本を良くしてもらおう」という気持ちをぶつけていない。生きる力を身に着けられず、希望の持てない教育はひっくり返さなくてはいけない。  (聞き手・岩城由彦)(おわり)(01.12.22)

土橋信男(どばし・のぶお)
 札幌市教育長。1936年旧満州・奉天生まれ。山梨県立市川高校卒業後、国際基督教大学教養学部自然科学科卒業。同大学院教育哲学専攻、米国シラキュース大学大学院高等教育行政科学科博士課程を修了し、75年に北星学園大学文学部助教授。教授を経て、93年に学長。今年4月、札幌市で初の民間教育長に就任。65歳。



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