民間校長

広島県・福山誠之館高校


★「組織経営」の意識で改革★

教職員の意識に変化も


 昼休みが終わろうという午後1時すぎ。開いたままの校長室の扉を後ろ手に閉めようとすると「そのままにしといてください。生徒が入ってくるかもしらんから」と声を掛けられた。

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「マツダ」から転身
 4月に広島県東部の福山市にある県立福山誠之館(せいしかん)高校に、広島に本社を置く自動車メーカー「マツダ」を希望退職した、山代猛博校長(57)が着任した。販売会社の社長経験も持つ山代校長は、33年間のマツダ生活にピリオドを打ち、自ら会社を興す予定だった。突然、会社から校長の話を持ち込まれ悩んだ末、「社会の入り口に立つ子供の橋渡し役を務めよう」と承諾した。
 旧校舎の古めかしい校長室で迎えた山代校長は、校長と言うよりスマートな企業経営者というイメージを残したまま。「これをみてください」。山代校長が示したプリントには「学校変革ストーリー」という文字が大きく印刷されている。

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数年先の姿明確に
 「これまでの学校は単年度計画で授業計画や行事を決めればよかった。それでは何も変わらない。数年先の学校の姿を明確にし、目標に向かって学校機能を活性化させなければいけない」
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休み時間に生徒と談笑する山代校長
 3年先を見据えた「ステップアッププラン」の作成では、山代校長、教頭をはじめ教職員全員がプラン作りにかかわった。「学校変革」まで唱える背景には、2年後には1学区制に変わり公立高校も厳しい選択の時代に突入することがある。「能力ある教師がばらばらに動いていては力が発揮できない。伝統に甘んじ待っとるばっかしじゃ生徒は来ない。目標を持ち、自己評価しながら改善していくのが組織経営。“運営”と“経営”の違いは私が一番理解している」と言い切った。

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生徒は敏感に反応
 民間校長に、敏感に反応したのは生徒たちだった。講堂で行われた4月の入学式。山代校長が入場すると生徒から満場の拍手が起こった。同校の村上悦雄教頭は「長い教員生活の中で校長が拍手で迎えられるなんて初めて。生徒には期待感があったと思う」という。
 山代校長が廊下を歩くと女子生徒が「先生、きのうの芸術鑑賞会ほんとうにえかったよ」と気軽に話しかける。時には男子生徒に、マツダ時代に飛び込み営業したエピソードを紹介し「そんなときネクタイがゆるんでいたら社会人としてだれもみてくれんよ」と言うと、真しに受け止める。生徒は敏感に校長から社会のにおいを感じている。
 広島県教委は山代校長のほか、小・中学校でもマツダを希望退職した民間人を登用した。民間登用に積極的なのは、教職員組合との関係抜きに語れない。組合活動を公休として扱う「破り年休」、日の丸・君が代に対する組合の強い抵抗。1998年、県教委は文部省から異例の「是正指導」を受けた。当初、組合は民間校長登用に「教育の中立性に反する」など反対したが、今のところ現場の教員や組合から反対の動きはない。村上教頭は「教員も新しい考えに触れ、勉強しとる。競争時代に突入し、このままでは淘汰(とうた)されるという危機感を持っとるのでは」とみている。
 組織経営の発想を持った民間人を採用することで、学校に新しい風が吹くか。教職員の意識や生徒の姿勢に変化は表れているように感じた。(酒井花)(01.11.25)

 人口38万人、瀬戸内海中央部に位置する商工業都市の福山市。福山誠之館高校の生徒数は1138人、教職員数99人のマンモス校。1786年に福山藩主阿部正倫が藩校「弘道館」を創設したのが始まり。普通科と1998年に新設した総合学科がある。民間校長は昨年4月の学校教育法施行規則の改正を受け、広島のほか、東京、埼玉、大阪でも登用している。



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