しかるおじさんを探せ

「信頼できて気軽に話せる存在」へ


★「愛情」届かぬケースも★

 「耳を疑うような青少年事件が続発する中で、いきなり見知らぬ子供をしかれと言われたって、それは無理な話。自分の子もしかれない親が増えているんだから」。市内の柏林台地区連合町内会会長の田村勇さん(70)は強調する。しかし本人は、少なくなったと言われる「しかる地域のおじさん」として周囲に知られている一人だ。

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声掛けが朝の日課
 「他人の子を自分の子供と同様にしかる大人が昔は地域に必ずいた」と、懐かしむような声が聞こえてきて久しい。道徳指導上、地域の教育力の重要性が声高に叫ばれているが、その広がりはいまだ鈍い。青少年の七三%は近所の大人からしかられた経験が「ほとんどない」という、一九九九年文部省調査の結果が如実に現実を物語る。
 田村さんは元教員。現在、防犯協会役員や公安委員会の少年指導員なども務め、青少年健全育成に関する経験は豊富。
 「だから」と田村さんは言う。
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「しかる」という愛情表現が届きづらい今の子供たち。大人が目を背けていては信頼の糸はつながらない(写真と本文は関係ありません)
 「自然と子供に声を掛けられるだけのこと。特別な意識は何もない」。退職して十年。愛犬の散歩の際、顔を合わせる通学中の児童、生徒一人一人に「おはようございます」と声を掛けるのが、毎朝の日課となっている。
 子供たちにとって怖い存在ではない。ただ、命にかかわる危険行為には、ためらいなく声を上げる。簡単なあいさつの積み重ねが固い信頼関係を築き、親にも話していない自分の進路ですら打ち明けられる。「まず顔見知りになることが先決。そうでなければ、しかられ慣れていない今の子供たちからは反発の方が大きい」
 「ぶん殴るぞ」などと、乱暴な言葉が返ってくることは珍しくない。田村さんの知人で厳しく注意した少年から、家にイタズラの範ちゅうを超えた落書きをされるなど“報復”されたケースもあったという。「しかる」という愛情は今、子供に容易には届かない。

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留萌では「運動」も
 「地域の怖い(信頼される)おじさん・おばさん運動」として地域社会の教育力向上を目指し、多くの住民を巻き込み総合展開している自治体がある。道北の留萌市教育委員会だ。昨年事業をスタート。子供たちと積極的にかかわる大人たちを募集し、同時に賛同者宅を「子供110番」に指定。ステッカーを掲示して、緊急時の避難場所の役割も担ってもらう内容。現在、二百四十人の登録がある。
 道内初の試み。「あいさつを交わし、良い行いはほめるという意識の定着と人材掘り起こしが狙い」と、担当する生涯学習課の濱口信子主幹は説明する。しかることが先ではなく、やはり主眼は会話だ。地域コミュニティーの基盤が崩れ始め、隣人の子供の顔も知らないほど住民相互の関係は希薄になった。求められるおじさん、おばさん像は「口うるさく煙たい存在」から「信頼できて気軽に話せる存在」へと変わってきている。

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住民間の連携必要
 しかし、塾や習い事に子供は忙しく、地域の大人との接点自体が減っているという課題も。田村さんは「一人ができることはそれほど多くない。地域全体で子供を見守る大きな力とするには、住民間の横の連携が不可欠」と訴える。さらに根源的な問題として、大人のモラル低下も指摘する。
 「車中からの吸い殻ポイ捨てなど醜い姿が余りに目に付く。声掛けは当然大切だが、まず子供に恥じない人間にならないと」。田村さんは「子供は社会の鏡」と何度も口にした。本当にしかりたい相手は大人の方なのかもしれない。
(年間キャンペーン取材班=森田匡彦)

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