畑地に有機質を還元するたい肥の機能について、別の角度から可能性を追求する研究が進められている。
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| 谷昌幸・助教授 |
帯広畜産大学の谷昌幸助教授(37)は「十勝の土は肥満」とたとえ、その解消法の1つに完熟たい肥の可能性を示唆する。たい肥に含まれる溶存有機物の「キレート作用」が、土壌中に蓄積した養分を引き出し、化学肥料の使用を抑えられるとの仮説を打ち立てている。
■物質が循環
たい肥や土壌には水に溶ける天然の有機化合物(腐植酸やフルボ酸など)が含まれ、キレート作用を持つ。谷助教授は、これらが土壌中を血液のように巡ることで蓄えられた養分を取り込みやすい形に変え、物質循環を促すとする。
なぜ土壌中の物質循環が重要なのか。それには「つかんだら放さない」十勝の土壌性質が大きくかかわってくる。
十勝の全耕地面積の5割を占めるのが火山灰性の「黒(くろ)ボク土」。名の通り色は真っ黒で肥沃(ひよく)な土に映るが、世界の穀倉地帯に分布するいわゆる「黒色土」とはまったく異なる。
旧ソ連のウクライナ地方を中心とする地域や南米の「パンパ」などに分布する黒色土は「チェルノーゼム」と呼ばれ、氷河の浸食によって運ばれた堆積(たいせき)物に由来するもの。
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| 土壌中の水に溶ける成分の比較試験。チェルノーゼム(中央)、沖積土(右)では黄色く色付くが、黒ボク土(左)はほぼ無色。土の吸着力の高さが表れている |
■やせた黒土
一方、黒ボク土は火山灰由来。火山灰中のケイ素が土壌中でアルミニウムなどと結合し二次鉱物ができる。これが高い吸着力を持ち施肥量の8、9割を土が吸収。黒ボク土が黒いのは、炭素の含量が高いためだという。
「やせた火山灰土」と称される十勝の土壌だが、これが「肥満」とたとえられる理由。谷助教授は「逆に言えばこれまでは土に養分を『貯金』してきた。今は引き出し方がよく分からないが、たい肥中の溶存有機物はそれを引き出す『暗証番号』になるかもしれない」と仮説の立証に研究を重ねている最中だ。
化学肥料の使用量削減は、日本農業の持続にとっても重要課題。窒素、カリと並び、植物の3大栄養素の1つ「リン」が特に問題とされる。
リン鉱石は今後50−100年の間に枯渇するといわれている。日本はほぼ100%を輸入に依存し、輸出国にとっては戦略物資ともなり得る貴重な資源だ。
十勝では、黒ボク土の高い吸着性から、作物の要求量の10倍近くが投入されているのが現状。谷助教授が行った調査では、管内のある黒ボク土中に、これまで十勝で営農されてきた歳月の数倍を補えるほどのリンが蓄積されていたという。
キレート作用を持つ溶存有機物は、たい肥の発酵に伴って量を増す。このため谷助教授は、完熟たい肥は土壌中の養分をうまく引き出し、作物に効きやすい形にする“ビタミン”的な役割を果たすと強調。「『土の中の貯金』をうまく運用することが、持続可能で循環型の農業のカギを握る」と話している。
(高田敦史)
<キレート作用>
一般的にカルシウムやマグネシウムなどのミネラルを、生物体が吸収しやすい形に変えること。クエン酸やリンゴ酸などの有機酸類がその作用を持つ。