潜むダイオキシン十勝の現状
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規制元年


岐阜県美濃市の近郊に住む安田昭さん(68)は、浮かない気持ちで歳末を迎えている。安田さんの心配は、家から歩いてほんの5分ほどのところに放置されている産業廃棄物の巨大な山。地区の自治会長を務める安田さんは、撤去と調査を求めて何度も市や県と渡り合ってきた。

11月19日夕、このごみの山から突然火災が発生した。火は激しい炎と煙を上げながら3日間燃え続けた。ごみには塩化ビニールや廃プラスチック、廃タイヤなどが大量に含まれていた。ごみの燃焼とともに、猛毒の化学物質・ダイオキシンが発生したのではないか。不安が募る。

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業者が不法に放置した美濃市の産業廃棄物は、地区住民を不安に陥れた

産廃が運び込まれるようになったのは、2年前の初夏。「どんと持って来たのは昨年10月から」(安田さん)。1日当たり15〜20台もの県外ナンバーのトラックが、産廃を満載して捨てにきた。驚いた住民たちは美濃市役所に足を運び、さらに県出先の関保健所にも実情を訴えた。

ところが、「行政がちっとも動かないもんで」と、安田さんが怠慢を責めるのも道理、県が業者に対して改善命令を出したのは、やっと7月だった。その間に不法に放置された産廃は約3万6,000立方メートルに上った。

美濃市役所環境衛生課の大矢浩主任は「廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)では、市は立ち入り権も指導権もない。県にはすぐ報告した」と話す。一方、関保健所の関野政二環境衛生係長は「撤去するよう業者に督促を繰り返した。10月には刑事告発もした」と説明する。ところが、業者が無視し続けたあげく火災で大量のごみが燃える事態になった。

 綿貫礼子氏講演会 

「子供たちの未来−ダイオキシン汚染がもたらすもの」

・1998年1月11日午後4時から
・北海道ホテル(帯広市西7南19)
・入場料500円
・問い合わせは十勝毎日新聞社事業部(0155-22-2121)
煙にダイオキシンが含まれていたとしても、一過性でもう調べようがない。しかし、土壌や水を汚染したとしたら、残留値を測ることができる。地域住民と美濃市議会は、県に対して調査を陳情・要望した。ところが県側は「土壌や水中のダイオキシンについては、環境基準値がない」ことを理由に調査を拒み続けた。もし、調査でダイオキシンの存在が確かめられたとしても基準値がない以上、結果の価値判断ができない。まして数値が独り歩きして住民の不安を一層高めるような事態は避けたい。県側の消極姿勢の背景には、国の対策の不備がある。

美濃市の産廃火災の経過を見ると、住民の訴えに対し、市は権限がないと県にげたを預け、その県は国の対策の遅れに責任をなすりつける。これでは住民は浮かばれない。

北海道も狙われ始めている。釧路では本州の産業廃棄物処理業者と道が処理場建設をめぐって行政訴訟に発展、業者側が勝訴したのは記憶に新しい。十勝でも産廃を燃料化する再処理工場の構想が語られるなど、ひとごとでは済まされない状況にある。

国のダイオキシン対策は、今年スタート台に立ったばかりだ。環境庁は、大気中のダイオキシン濃度を年平均0.8ピコグラム(ピコは1兆分の1)以下に抑える指針値を決め、その内容を今月から施行した大気汚染防止法の一部改正に盛り込んだ。また、廃棄物処理法による煙突の出口濃度規制は、厚生省令の一部改正がやはり今月、発効した。だが、土壌と水については、まだ何ら基準値がない。

これについて環境庁は「ダイオキシンは99%以上が大気を通じて排出される。ダイオキシンは水に溶けにくいから、さしあたり水質の基準値を作る必要はないと考えている」(水質規制課)。一方、土壌については「調査の標準的手法を策定中」(土壌農薬課)で、来年1月には、調査法を各都道府県に通知するという。ただし、規制値を策定するかどうかはまだ検討課題にもなっていない。1980年代から、水や土壌についても基準値を設けている欧米に比べ、日本の対策は相当遅れをとっている。

国レベルではダイオキシン規制の元年となったが、自治体は焼却場や廃プラスチック処理などの問題で戸惑いを見せる。規制対策で不備が指摘される内容には、今後さらなる肉付けが求められている。今回、十勝毎日新聞社が実施した母乳調査でも、低水準ながらダイオキシンの影響が住民に忍び寄っていることが明らかになった。十勝でも行政、住民が一体となって対策を検討する時期がきている。(年間キャンペーン取材班=目黒精一)(おわり)


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