ダイオキシン最前線
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人体影響評価に取り組む〜農家の野焼きにも危機感



摂南大学薬学部教授 宮田秀明さん(上)

シリーズ第1部で紹介した埼玉県の産業廃棄物処理場の事例をご記憶だろうか。住民運動の発端となったのは宮田さんが行った土壌に含まれるダイオキシンの調査だった。
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ダイオキシンの人体影響評価に取り組む宮田秀明さん
「“頭やのどが痛い”“コケが枯れている”という住民の話だったんですが、データが何もなかった。私は当時、産業廃棄物には取り組んでいなかったのですが、当然ダイオキシンは出るのに排煙処理がなされていない。小さな施設での実態を調べ、汚染が起こるのかどうかを明らかにしようと考えました」。体への影響を感じる住民、一方で因果関係も実態も把握できないもどかしさ−日本のダイオキシン問題を象徴するような状況に、結果的にくさびを打ち込んだのだ。

宮田さんは1968年のカネミ油症事件での原因究明にも取り組んでいた。後に原因となった物質は、ダイオキシンに類似したポリ塩化ジベンゾフランと、コプラナPCBであったことが明らかとなっている。「ダイオキシンそのものを研究対象にする前から“片割れ”との付きあいはあったということです」。

欧米では化学工場の爆発事故など、局地的なダイオキシン被害の事例があったが、環境汚染という意味で問題視されたのは76年、オランダのごみ焼却施設から検出されて以降だ。日本ではやや遅れて83年、愛媛大の研究発表が報道され、注目されることになった。

宮田さんも78年から84年にかけて大阪府下のダイオキシン類の母乳濃度を調べ「世界的にも最も高い」という結果を発表しているほか、魚やムラサキガイ、食品、台湾の野焼きの事例などに取り組んだ。最終的に人体影響評価、つまり人体に影響があるのかどうかを明らかにしようという狙いは当時から一貫している。

全国を調査に歩く目から見ると北海道の汚染は「われわれの調査でもいつも低く、全体としては低いと思うんですね。となれば問題のなるのは産廃焼却・処理場、工場といった“出る所がある場所”ですね」。

ダイオキシンは燃やせば多かれ少なかれ出てくる。「例えば一般ごみ焼却場の排煙濃度は、1立方メートルあたり1ナノグラム(1ナノグラムは10億分の1グラム)から2,000ナノグラムを超えるところまで差があります。ごみ自体に差があるとは思えない。ごみでも産廃の焼却場でも優良設備であればダイオキシンはあまり出ない。一律に出ているのであればことは簡単で、(処理の)量による。一律じゃないから問題なんで、その実態が分からないからまた問題なんです」。

農家の野焼きにも危機感を持っている。「例えば農家の人がビニールハウスを野焼きするとすれば非常に問題です。ひょっとすると焼却場1個分くらいのダイオキシンは簡単に発生させてしまうかもしれないからです」。天然のものと異なり、農薬やビニールは酸素を含まない。しかも野焼きは燃焼条件がよくないため、ダイオキシンができやすい。「北海道は数値が低いから」といって安心はできない。配慮を怠れば大量に発生させてしまう。そこがダイオキシンの難しさでもある。(年間キャンペーン取材班=福本響子)


みやた・ひであき

1944年大阪市生まれ。大阪府立大学農学部獣医学科卒、大学院終了。病理の勉強を志すが、府立公衆衛生研究所で食品科学の担当となり、分野が一転。カネミ油症事件が問題になっていたころで、その後研究はダイオキシンの人体影響へと広がる。85年に摂南大に移り、精力的に研究活動に取り組んでいる。