ダイオキシン汚染の恐怖
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香川県・豊島(上)

正月早々、不気味な話で申し訳ない。昨年12月中旬、香川県土庄(とのしょう)町豊島(てしま)に行った。小豆島の西隣、瀬戸内海国立公園に浮かぶ小さな島だが、産業廃物不法投棄の島として全国に知られる。シュレッダーダストと呼ばれる車の破砕ごみなどが積み上げられた島の西端は、死の世界のようだった。
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島のほぼ全世帯に当たる549人で組織する廃棄物対策豊島住民会議の石井亨さん(36)の案内で現場に入った。フェリーが着く家浦港から車で数分のところだ。緑の木々の中に山茶花が咲き、ミカンの実が黄色く輝く細い道を走って再び海岸に近づくと雰囲気が一変した。

砂の上に雑草がまばらに生え、所どころに試し掘りの穴が口を開け、黒こげのごみが積まれている。足の下は数メートルにわたってすべてごみだ。直径20センチほどのボーリング調査用パイプからは、水蒸気とともに異臭が立ちのぼる。「視察の人が10人来ると1人か2人はここで頭が痛くなったり、吐き気を訴えまよ」。石井さんはこともなげに言った。

北の海岸からわずか数メートルのところでは、ごみからの浸出水が茶色い細長い沼をつくっている。そのすぐ東は白砂青松の海岸。対照的な風景が不気味さを増している。
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海岸近くに山積みされた産業廃棄物の上に立つ住民会議の石井さん。左手に浸出した水が不気味な沼をつくっている。
この一帯22ヘクタールに不法に運び込まれ、今も残るごみは51万トンに上る。1978年から兵庫県警に摘発される90年まで、島内の処理業者「豊島総合観光開発」が持ち込んだものだ。排出業者は、兵庫、岡山、大阪、香川などの21社で、遠くは福井県から運ばれたものもあるという。

シュレッダーダスト(自動車を粉砕して有価金属を取り除いた廃プラスチック類)に廃油、廃溶剤など各種有機化合物を含有する廃液をかけて、大量に野焼きもしていた。

住民は当初から有害物質の持ち込みを懸念し、県庁への反対陳情、処分場の差し止め訴訟などを展開してきた。摘発後も、残された産業廃棄物の撤去などを求めて、香川県、指導的立場にあった県職員2人、処理業者、排出業者を相手方に93年11月、国に公害調停を申請した。

2年後、国の公害等調整委員会は、専門委員による実態調査の中間報告を発表した。廃棄物から高濃度の猛毒・ダイオキシンが検出された。海のカキからも出た。県などは「ない」と主張していたものだった。住民の不安が現実のものになった。
(つづく・夏川憲彦)


ダイオキシン

有機塩素化合物であるポリ塩化ダイベンゾダイオキシンとポリ塩化ダイベンゾフランの総称(コプラナーPCBを加える研究者もいる)。このうち2、3、7、8 四塩化ダイオキシンが最も急性毒性が強く、サリンの2倍、青酸カリの千倍から1万倍で、わずか85グラムで100万人を殺傷できる毒性があるとされ、史上最強の猛毒物質といわれている。催奇形性、発がん性、免疫毒性などを持つことも知られている。1960年代のベトナム戦争で米軍がまいた枯れ葉剤に混じっていてたくさんの奇形児誕生や流産を引き起こしたことで有名になった。塩素を含む物質をもとに燃焼や漂白など私たちの身の回りの活動からできてしまい、わが国は世界トップクラスの汚染国になったとされる。

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