先進地ドイツに学ぶ(3)

介護保険導入で構造変化


「形態よりサービス重要」
伝統の団体も多角、合理化

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 昼食後の昼下がり。陽の光が差し込むガラス張りのベランダで、背もたれいすに座り、ゆったりとひなたぼっこする数人のお年寄りたち。皆、とても穏やかな表情だ。その傍らでは施設長のツィンザー・グドゥランさん(46)が優しくほほ笑えむ。

 ベルリンでも閑静な住宅が立ち並ぶヴィルマースドルフ行政区にある、労組系の非営利団体「労働者福祉教会(AWO)」運営のショートステイ施設。在宅介護・看護事業が柱だが、7年前から事業の多角化で収益アップを目指し、ショートステイも始めた。収容人数は8人。来年3月まで予約でいっぱいだ。

■民間団体が福祉担う

 ドイツの福祉政策は独特だ。長年、プロテスタント教会救済事業団や赤十字などの六大民間福祉団体がサービスを担っており、国はこれらの団体にばく大な助成金を拠出してきた。その額は全団体の運営費の85%も占め、優遇されている。いずれも運営は非営利で、日本のNPO法人にあたるe.V(登録社団)。AWOもその一つで、全国で事業を展開している。

 ただ、ここ十年で福祉国家の社会保障制度は、国の予算削減姿勢の中、ひずみを生んでいる。

 ツインザー施設長は90年ころから国が健康保険を出ししぶっていると強く感じた。保険対象を削り、支払い側の疾病金庫など担当者のチェックも厳しくなった。92年には訪問介護・看護事業の収益がピーク時の3分の1に減った。

 介護保険法のスタートもさらに状況を悪化させた。介護事業を一大ビジネスととらえ、多くの民間企業や個人が参入。「正確な業者数は分からないが、スタート後、間違いなく急増した」とツインザー施設長。

 また、新制度のもと、サービス料は一律になったものの、逆に事務的になったとも指摘され、元来からの慈善の精神と合理化のはざまで揺れ動いている。

■営利追求で問題も

 営利を追求するあまり、ヘルパーに過剰なノルマを課したり、人件費を安く上げようと、無資格者を雇うなどした結果が、ドイツで問題になっている「介護虐待」を生んでいる。介護の手抜きで床ずれができ、骨までえぐれた死体写真などは目を覆うものがある。

 ただ、慈善の精神だけでは競争力を失ってしまうため、同施設ではサービスの質を維持しようと、合理化に取り組んでいる。大部分の職員を時間制に切り替え、介護・看護事業をe.Vから有限会社へと切り離した。ツインザー施設長は「組織を分散化した方が給料のベースアップや雇用形態など、経営陣の意向が反映しやすい」と漏らす。ほかの地域のAWOも同様で、業界全体の傾向という。

 一方、ケルン市の介護サービス提供者協議会の会長を務め、介護サービスの有限会社も経営するトーマス・フィッシャーさんは、看護士として15年間勤めた大学病院を9年前にやめ独立した。病院という大組織の中では患者さんに本当に満足してもらえる自分の理想の介護ができなかったからだ。一人から始め、今ではスタッフ130人余りを抱えるまでに成長した。

■「慈善の精神で適正に」

 「介護の世界では長年続いた福祉体制の影響から、非営利が善、民間会社が悪のようにいわれる。だが、一番重要なのは会社の形態ではなく、慈善の精神で適正にサービスを行うことではないか」とフィッシャーさん。

 十勝の福祉関係者の間では逆に今、申請した高齢者の要望に答えられるだけの介護が行えるかが不安視されている。だが、将来ホームヘルパーの急増は間違いなく、いずれドイツと同じことが起こらないとも限らない。フィッシャーさんの言葉が妙に心に突き刺さった。(年間キャンペーン取材班=佐藤いづみ)(99.11.17)

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