先進地ドイツに学ぶ(2)

「社会のための」財団設立


脱政治・国家目指す
非営利組織間にも緊張感を

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 ドイツの古都・ケルン市から北東へ電車で2時間余り。ギュータースロー市で降りる。人口10万人ほどのドイツらしい古い建物が並んだ何の変哲もない街だ。タクシーに乗り込む。運転手に「この街で有名なものは何か」と聞いた。すると運転手は誇らしげにこう言った。

 「ベルテルスマンさ」

 ベルテルスマンは出版会社を中核に、新聞やインターネットなどを手掛けるドイツ最大手、世界3番目のメディアグループ。1977年にはグループ全体の約70%の資産を移し、同名の財団を設立。現在、経済や政治など133のプロジェクトを手掛けている。

 ここ数年で職員が1.5倍の138人に急増。社屋が足りなくなり、急きょ、プレハブを建てたほどだ。なぜ順調に業績が伸びているのか−。

■半公設図書館

 ガラス張りの外観。まるでショッピングセンターさながらだ。中に入ると、広い館内にはくつろげる喫茶スペースもある。家族連れや若者でにぎわっている。この施設は、れっきとした市立図書館なのだ。

 だが、公立ではない。市が51%、財団が49%の比率で出資し、84年に設立した有限会社(GmbH)。人件費は市の負担なので職員は公務員、財団は立ち上げ時のプロジェクトや運営のサポートなどを担当する。これはドイツ国内でも珍しい運営形態という。

 同財団の企画主任、ペーター・ヴォルケンホルストさん(37)は「当時は、テレビ文化の台頭などで人々の間で活字離れが指摘されはじめたころ。どうしたら、もっと本を読んでもらえるかを考えた。ちょうど市も老朽化で利用率が落ちていた図書館の新築を模索していた」と話す。

■自信のサービス

 利用するには大人で年会費25マルク(1500円)が必要だが、年間延べ29万人が利用、これは同市の人口の3倍近くにあたる。参考までに、人口17万人の帯広の市立図書館の利用人員は49504人(98年度)。同市の利用率がいかに高いかが分かる。

 「市民が本当に求めているサービスを提供している自信がある」と副館長のヘルガ・ヘトフェルトさん(40)。

 例えば、本の分類。教育問題が指摘されるなか、あらゆる年齢層の子育てにまつわる書籍を一カ所にまとめたり、子供の宿題に役立ててもらおうと、作家別に並べた書籍の横に作家本人の伝記も配置するなど細かいサービスを展開。また、マルチメディアに対応すべく、いち早くインターネットカフェも導入した。

■自信のサービス

 だが、決定的に違うことがある。税優遇が受けられる点だ。ドイツではアメリカ合衆国同様、団体の目的が公益であるなどと認められた場合、会費や補助金、寄付金など収入が非課税となるほか、これらの団体への寄付行為も控除が認められている。

 e.Vなどのコンサルタントを行っているメセナタ社(ベルリン)のシュトラヴィッツ取締役によると、ドイツには登録社団を含めた非営利団体がおよそ百万団体はあり、そのうち35万団体が税優遇を受けている。社会構造にひずみが出始めた80年代からは、e.Vの登録が急増しているという。

■潤沢な予算

 ヘルガさんは「これらの流れは国内の図書館にも影響を与えている。ただし、年間4千万マルク(2億4千万円)という潤沢な予算があるから可能だった」と、財団の存在の大きさを認める。

 通常、「財団」と聞くと、助成機関あるいはシンクタンク的な認識を抱く。実際、日本の有名な財団なども助成機関の印象が濃い。だが、同財団の場合、一代で会社をここまで大きくしたラインハルト・モーン氏(78)の「会社は社会のためにある」との理念を具現化すべく、自分の資産を投じて社会問題を分析し、解決策を提案、そして実行にも携わっていく-との精神で運営している。

■金銭発生は「報酬」

 ドイツではここ20年間、財団の設立が急増している。「もはや国家や政治家では社会的、文化的課題には国の予算で対応できない。そんな中、自分の財産は確実に良いことに使いたい、と願う資産家が多いからでは」とペーターさん。

 また、「社会状況が変化するなか、財団自身がもっと企業風土を取り込むべき。非営利団体などは一つの目的に特化し、力をつけてほしい」とも述べる。同財団の場合、他の組織に仕事を任せることもあるが、あくまでもパートナー。お金が発生するのもプラン実現に対する報酬と位置付けている。

 真の意味で、住み良い社会の実現のためには“もらいっ放し、あげっ放し”ではなく、非営利組織間であっても、ある程度緊張感のある関係をつくることが必要ではないか。そう強く感じた。(年間キャンペーン取材班=佐藤いづみ)(99.11.16)

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