「出生率が回復する国」

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産むことは権利〜公的補助など環境が整う

デンマークの気候は十勝と似ている。8月も中旬を過ぎているせいか、最高気温が25度を超えない。湿度も低く、風が涼しく感じる。郊外に出るとすぐに平野が広がるところも、何となく十勝を想像させた。首都のコペンハーゲンは中世そのままの町並み。中心部の買い物通り「ストロイエ」は平日だというのにごったがえしていた。家族連れも多い。よく見ると、乳母車を押したり、小さな子供の手を引く夫婦の姿が目につく。この国で今、子供を産む女性が増えているのだ。出生率が低下している国が多い中、人々は子供をどのように育てていこうとしているのだろうか。

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メモ

デンマーク王国はユトランド半島、シェラン島、フュン島からなる本土と、フェロー諸島、グリーンランドからなる。人口は525万人。高緯度の割に温暖だが、冬は長く、寒さは厳しい。年間の平均気温は8.2度。首都はコペンハーゲン。


“欧州トップ”目指す

出生率でヨーロッパトップを目指す−。デンマークで第2位の発行部数を誇る日刊紙「ポリティケン」8月18日付の記事に、こんな見出しが踊った。

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「子供を持ちたいと思う夫婦、特に女性が増えている」と話す社会学者のクヌッセン氏
EU(ヨーロッパ共同体)統計局の調査で、1980年から97年までの18年間でデンマーク、ノルウェー、フィンランド、ルクセンブルクの4カ国の出生率が伸びたことを示した。特にデンマークは80年当初はEU平均を下回り「少子化の著しい国」だったが、97年には1.74(EU平均1.44、日本は95年で1.42)まで上昇したと報じている。同紙のミケール・ペダーセン記者(28)は「この10年でデンマークを含めた北欧諸国が出生率を上げている」と話す。

出産を肯定的に

デンマークは第2次世界大戦後に、日本と同様ベビーブームが到来、60年代前半まで出生率は2.0以上を保っていた。しかし、「その後は農業国から工業国へと移行した時代。女性が労働力として社会に出たことで、子供を産むのを控えた。また70年代から性教育が徹底されことも影響している」と、人口統計学研究所職員で、社会学者でもあるリスベット・クヌッセン氏(50)は分析する。結果、83年には1.37まで落ち込むことになる=表参照。

しかし、翌年から増加に転じ、95年には1.80までになった。クヌッセン氏は「20代で産まなかった層が今30代になって子供を設けているに過ぎない」としながらも、「最近は夫婦が、特に女性が積極的に子供を産みたいと思っている。子を持つことを肯定的に捕らえているようだ」と指摘する。

デンマークの合計特殊出生率の動向
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春闘要求にも反映

出生率が上がった原因として、「以前よりも子供を産みやすい環境になっている」とクヌッセン氏はいう。「産むことは権利」と社会が認め、経済的な援助、各種施設整備を進めた結果であるというのだ。一方で、ペダーセン記者は「子供を持つことに否定的だった若者の気持ちも変化している」と話す。同記者は社会の価値観が変わってきたと感じている。

その一つの表れとして今年のデンマークの春闘でこれまでにない、日本ではまず考えられない要求が労働者側から出された。賃金アップではなく、家族と共に過ごす時間を増やせというものだった。

少子化は日本のみならず、先進国を中心に世界的広がりを見せている。ヨーロッパも例外でなく、少子化対策に乗り出す国も出てきている。そんな中、デンマークは出生数の減少に歯止めがかかり、ここ15年は回復基調だ。“子供を産む”ことに、デンマークの国や人はどのような思いを持っているのだろうか。関係者の話を通じ、リポートする。(年間キャンペーン取材班=猫島一人)


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