縦割り保育

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弱い者をいたわる気持ち育む

「ちょっと力を入れて押しただけなのに」−。洋平君(5つ)は2歳年下の和美ちゃん(3つ)が泣き出した時、こう言い訳した。2人は保育所の運動場で手をつないで遊んでいたが、ささいなことでけんかになり、洋平君が胸を小突いた。「よくある子供のけんかに見えますが、年下の子に対し、自分と同年齢の子供たちに接するのと同じような力加減で振る舞う。弱い者をいたわる気持ちが、備わっていてもいいはずなのに…」と、その保育所の保母(40)はいう。

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異なる年齢の子供たちでクラスを編成する「縦割り保育」。人間関係が広がり、良い影響を持たすという(写真は帯広保育所)
注意に過敏な反応

伸二君(4つ)は積み木を乱暴に扱い、保母に注意された。それ以来、その保母とは口をきかなくなり、距離を置くようになった。「少し強い口調で言っただけなんです。これまでなら、子供たちはすぐに何もなかったようにケロリとしていたんですが、今の子は過敏に反応する」。

子供たちが、そして子供の社会が、少しずつ変わり始めている。洋平君や伸二君のような子は昔もいたが、それはほんの一握りだった。今は、そんな子供たちが増えている。保母たちはそう感じている。

帯広市の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に生む平均的な子供数)は1.48(1996年度)。全国平均をやや上回っているが、確実に少子化の波が押し寄せ、核家族化も進み、人間関係が希薄になりつつある。帯広市子育て支援システム実行協議会の小野豊子会長(54)は、そうした社会情勢が子供たちの世界にも影響を与えていると考えている。

子供コミュニティー崩壊

特に、それは「子供たちの心に影響している」と指摘する。しばらく前は、近所の子供たちで独自のコミュニティーをつくり、遊びながら人間関係を広げることができた。しかし、今は近くに子供がいないため、心配する親が遠くの子育てサークルなどに通う時代。祖父母や親類も近くに住んでおらず、子供は親としか「人とのかかわり」を持てない状態が進みつつある。「異なる年齢の子と一緒に遊んだり、多くの大人たちと接することで、子供は年下の子へのいたわりや、大人に対する尊敬心などが芽生える。『親はなくても子は育つ』というのは、社会全体で子供を育てる形になっていた昔の話。今は絶対に望めない」と小野会長は言い切る。

今、保育所では異なる年齢でクラス編成する「縦割り保育」導入で、“社会”の肩代わりを試みている。週に一度や、一日数時間という保育所が多いが、帯広保育所(帯広市東3南11)は94年に全面的な縦割り保育に切り替えた。

心のコントロールを

3歳以上の幼児を1クラス30人ずつに振り分け、クラスを「家庭・地域」に、クラス内の子供たちを「兄弟」に見立てる。「異なる年齢の中にいると、徐々に自分をコントロールすることを覚える」と金曽優子所長(51)は縦割り保育の利点を挙げる。

「個人的には4、5歳で精神的成長がないと、小・中学校でのいじめや暴力という問題につながる可能性が高いと思う。幼少期はそれぐらい大事な時期なんです」。変わりつつある子供の社会を見据え、金曽所長は語気を強める。(文中部仮名)(年間キャンペーン取材班)


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