重い鎧

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きれいな母親でいるために

最近は「若くてきれい」といわれる母親が多い。公園へ散歩や保健福祉センターへ検診に「おでかけ」して来る母親は、しっかりと化粧をして、身なりもきれい。とても子供が2、3人いるとは思えない。まゆ毛もきれいに整えている。乳児期から子供にもブランド品を身に着け、さっそうとベビーカーで街に出る−。

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家の中で窓から外を眺める親子。自分のまとった鎧の重さが、外に出ていく足かせになっている場合もある(本文と関係ありません)
「今は、自分をできるだけ美化する“鎧(よろい)”をまとっている人が多い」と、芽室町のかしわ児童館に通う郁子さん(32)は、3歳と2歳の2人の女の子の髪をなでながらいう。だが鎧は、子育ての悩みを打ち明けるなど、母親同士の心の交流の機会をもはね返しがちだ。

「きれいな母親でいるためには、それだけ繕う部分が多くて必死なんですけどね」というのは二児の母、真紀さん(32)。郁子さんと同じ育児サークルで、同館に通う仲間だ。

本州から来た真紀さんは、当初、人とのつながりが全くなく「どこに子育ての助けを求めたらいいのか分からなかった」と、3歳のわが子を傍らで遊ばせながら打ち明ける。公園に行き、育児サークルに入って同年代の子を持つ人と仲良くなり、やっと交流の輪ができた。

「子供ができてから知り合うと、夫の仕事とか家の状況、個人の学歴など、触れてはいけない部分が多いような気がしてしまって…」と真紀さん。こうした気兼ねのしあいが、お互いに鎧を“着せ合う”ことになる。

勇気を出して家に誘おうとしても、自分の家の汚れ具合と雑誌の理想の家とのギャップが大きく、恥ずかしくて呼べない。だからあいさつからもう一歩が踏み込めずに悩む。部屋がきれいに片付き、一番自信のあるときに呼ぶと、今度は呼ばれた方がプレッシャーになり、また悩む。

だが頻繁に行き来するようになると、次第に台所に油がはねていたり、ごみが部屋の隅にたまっているのを目にしたりする。「ほっとしますよ。ああ、この人も私と同じなんだってね」と、真紀さんと顔を見合わせて笑った郁子さん。この瞬間から、お互いの“鎧”は消え、本当の付き合いが始まる。

同館の週2回の開放日には、2人のほかにもたくさんの母親たちが子供の手を引いたり、抱いたりしてやってくる。「○○さん、あのねえ…」。おもちゃや絵本などで遊ぶ子供らを見ながら、親しげに世間話などをする母親たち。互いに気心の知れた子育て仲間だ。そこには、当初あったはずの鎧は、もう感じられない。

育児雑誌の『子供が3人いても、きれいな家ですてきなお母さん』という“理想像”を前に、郁子さんは「乱れ髪におんぶ紐(ひも)、という姿が、本当は子育てする母親の理想の姿なんでしょうね」と改めて思う。情報がはんらんする時代に育った親たちの“子育て”は、雑誌などの情報で伝えられる姿に近づこうとし、本来の自分の悩みさえも見失いがちになっている。現代に生きる母親像は重い鎧を何枚も着込んでいるようだ。少なくとも、2人はそれに気づいた。(文中一部仮名)(年間キャンペーン取材班)


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