少子社会の波紋〜揺れる地域から

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受験一辺倒から脱皮へ

「これからの塾は勉強以外のことを体験できる場を子供たちに提供しなければならない」。教育総研(本社大阪市)広報の土屋公俊氏は力説した。同社は昨年4月に塾としては初の山村留学「能登の学校」をスタートさせた。子供たちは親元を離れ、最低1年間、石川県門前町の学校に通う。特徴は家畜の世話や農作業など、自然と触れ合いつつ、塾のノウハウを生かした学習指導。現在7人の生徒を預かっている。

大阪市の幼稚園・小・中・高校の在籍数
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費用は1人年間130万円。「土地の取得や宿泊施設建設に1億円投資したほか、人件費や広告費など、年間3,000万円かかっているので、まったくの赤字」と土屋氏。塾の将来像を提案する一例と多くのマスコミにも取り上げられた。しかし、その裏には親が子供に安いとはいえない費用をかける少子化特有の“一子豪華主義”も垣間見える。

子供の数が減少する中、学習塾は少しでも多くの生徒を集めようとさまざまな教育システムを生み出している。子供一人ひとりへの対応に切り替えるのをはじめ、家庭でできる大人向けコンピューター講座を模索する塾もある。

一連の取り組みは少子化に向けた生き残り策にほかならないが、受験一辺倒の体制の様変わりを示す現象でもある。一方で、塾は子供たちを取り巻く親や学校現場の現状をも浮き彫りにしている。

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教育総研はコンピューター講座も昨年4月に開設した。勉強だけではなく、コンピューターの使い方に重点を置いた指導をしている

進学塾ウィン(本社大阪市)は大阪と奈良に約110校余りの教室を持ち、1万1,000人の生徒が通う大手。85年に“勉強はしない”をスローガンに、三重県名賀郡に「青山山荘」を建設した。「教室では知識を教え、山荘では知恵を教える」と約3,000平方メートルの敷地に宿泊施設のほか、天文台、座禅堂、ログハウス、竪穴式住居を備える。子供たちは1泊2日の日程で、食事の準備や掃除のほか、陶芸や木工作業などに取り組む。テレビは見ず、本やゲームの持ち込みも禁止する徹底ぶりだ。費用は1人1万円。年間40日で約1万人が山荘を訪れる。

森本一副社長は「学校で目立たなかった子が、リーダシップをとって生き生きと過ごすこともある。われわれは山荘で“心の教育”をしている」と自信に満ちた表情で話す。ウィンも教育総研同様、収益はゼロ。しかし、両社とも「ほかの塾との差別化ができる。これからもっと力を入れていく」という。

「創造性を伸ばす」ことを狙いとした自然学習に取り組む塾は多くなっている。森本副社長はいう。「隔週で学校の週休2日制が実施されたが、終えるべき指導内容と量はさほど変わっていない。このため、学校は理科の実験や野外学習など実践教育を切り捨てている。結果、学校は知識を教えるだけの場になった。子供にとって、それだけで良いはずがない。2003年の週休2日制完全実施で、学校はますます最小限のことしかやらなくなるだろう」と話す。

今、子供や保護者が何を求めているのか−。塾はその答えを学校の役割を肩代わりすることに見いだそうとしている。

時代が変わり、塾の構造も変わる。少子化のうねりを乗り越える塾経営の特効薬はないが、「ニーズ把握」という原点回帰が未来の塾のキーワードになるのかもしれない。(少子化問題取材班=猫島一人)(第一部おわり)


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