少子社会の波紋〜揺れる地域から

−5−

園児服メーカー

山口県防府市の郊外、塩田を埋め立てた工業団地の一角に、園児服で国内シェア1割を誇る中村被服(中村力社長、従業員130人)の本社工場がある。年末、閑散期の工場内は裁断機械の音だけが響き、従業員もまばらで、淡々とした作業風景が目につく。だが、主力の縫製部門では作業の女性従業員がいつも通りに手際よくミシン糸を走らせていた。縫い込んでいるのはもっぱら車の座席シートだ。

map

同社は1924年に創業、ミシン縫製70年余りの歴史がある。メリヤスから戦時中の軍服、戦後の学生服づくりなどを経て、園児服を手掛けた。現在全国約4,000の幼稚園・保育所に出荷し、国内トップシェアの実績を積み上げている。だが今、少子化の波が足元を揺さぶり、同社は主力の園児服から、縫製技術を生かした他分野への方向転換を図っている。

多角化の責任者、石本則吉取締役営業部長は「全国の園児の数は1977年の510万人をピークに今は360万人と激減。パイが小さくなることで、幼稚園・保育所は生き残りをかけてほかとの差別化に躍起となり、親は少ない子供に多くの金をかけるようになる」と少子化情勢を分析し、有名デザイナーによる園児服のブランド化に営業戦略を切り替えた。さらにアトピーやO157対策の先端素材も取り入れ、高級感・清潔感を強調することで園児服部門の強化を図った。

photo
経営の多角化で車の座席シートを安定生産する中村被服の本社工場

幼稚園の園児獲得競争が次第に過熱する中、色彩・デザインはどんどんエスカレートしていく。赤青といった原色系服が主流となり、男の子に赤ブレザーを着せるまで変ぼう、「一子豪華化」を色濃く映し出した。「ブランド化で1セット当たりの販売価格が跳ね上がり、園児服部門の売上高は従来水準を維持している。少子化がなければもっともうかっていたのに」と石本営業部長は苦笑いする。

次の戦略では高齢社会の介護用品分野をターゲットにした。ところがベッドシーツ1つとってもホームや病院によっては通気・通水性素材の要求と、逆に防漏素材にそれぞれのニーズが分かれて安定供給への「決定打」がなく、同社内の売り上げシェア10%の同部門は伸び悩んでいる。独自商品開発は手探りの状態でまだまだ先が見えていない。


photo
「ブランド化の営業戦略で生み出される園児服は次第に派手さを増す」と語る石本部長
そうした中、1983年に市内にマツダの工場が進出してきたのをきっかけに、座席シートの縫製を同社が請け負うことになった。景気浮揚に左右されながらも安定供給先を確保したことで新分野開拓に弾みがついた。

そして現在、宅配便用の保冷ボックスの縫製実績が急上昇。人口ピーク時の園児服100%の売り上げシェアは今、園児服6割、介護と座席シート・保冷ボックス縫製の多角化分野4割となり、経営内容は大きく様変わりした。「多角化といっても設備投資には限界がある。今ある技術を基盤として知恵を働かせることが必要」と中村弘専務は強調する。

だが、同社の基盤はあくまでも園児服で、販売競争は一層激しくなり、「一子豪華化」はさらに際立つものとみられる。これに対し、石本部長は「一人の子供に社会全体が過剰にかかわるような時代は、子供が自己中心的となり決して好ましいことではない。うちも生き残るためとはいえ、(ブランド化などには)自己矛盾を感じている」と静かに語り、少子化にかかわる大人社会の課題も浮き彫りにした。(少子化問題取材班=道下恵次)


年間キャンペーン『少子化時代を考える』  WEB TOKACHIトップへ