少子社会の波紋〜揺れる地域から

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高知県南国市[下]

高知県の空の玄関・高知空港を抱える南国市は、土佐日記で知られる平安時代の代表的歌人、紀貫之の邸跡もある古い町。歴史を感じさせる風情が色濃く残っているが、狭い道路が入り組んだ町並みを歩いていると、それとは異質な空気を感じ取る。家々の外窓や壁などに「許せない!」「やめて!」と書かれた紙が張られているためだ。

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紙は保育所の民営化計画に反対する保護者会などのビラで「○○保育所の民間委託・ねらいは保育の切り捨て」「子供は南国市の宝です」の文字が並ぶ。

保育所の周辺では、ビラとは別に「○○保育所民営化反対!」と太字で書かれた立て看板が目を引く。この町を包む保育所問題の激震ぶりが伝わる。

市側は、少子化の影響で保育所の入所児童数が減っているにもかかわらず、運営費負担が年々増加する−という事態を財政上のネックと位置づけ、民営化による人件費削減などで負担軽減を図ろうとしている。市民生課の土井信幸課長は「年間7億円を超える市費負担は、公民館の改築や道路改修などの建設事業の予算規模を上回っている」と、保育所運営費の突出ぶりを強調する。

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街中に張られた民営化反対のビラ。保育所問題に揺れる南国市を象徴している
市は14カ所の公立保育所のうち、比較的規模が大きく経営しやすい8カ所を民営化可能な保育所に選定し、7カ年計画で民営移行を徐々に進める方針。計画通りに進むと、市費負担は「机上の計算で3億6,000万円浮く」(土井課長)という筋書きだ。

市が保育所の統廃合、民営化に踏み出したのは94年11月、市監査委員が決算審査意見書の中で、市費負担の増大に触れ「保育行政の改革、再検討の時期が到来した」と指摘したのがきっかけ。市は保育所問題検討委員会を設置、統廃合と民営化を骨子とする合理化案を諮問。昨年2月、検討委の答申は「地域や保護者の理解、合意を得ること」を条件に合理化案を承認した。これで民営化計画にゴーサインが出た。

これに対し、関係保育所の保護者会などは「民営化は住民福祉の後退。少子化時代を迎え、子育て支援こそ行政がやるべきこと」と猛反発。民営化対象に指定された大篠保育所の西山明彦保護者会長は「金がかかりすぎるから民営化するという行政の姿勢は、保育の公的責任を放棄するもので絶対に認められない」と厳しく言い放つ。


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「民営化は行政責任の放棄」と語る西山明彦さん
大篠保育所はじめ、民営化反対の保護者会は、市の姿勢を批判するビラを作製したり、反対集会を開くなど具体的行動を展開。大篠保育所保護者会は大篠地区有権者の過半数、4,300人の反対署名を集め、市長に提出した。全市的な反対署名活動も着々と進められている。

一方、市側は広報誌で保育所問題の特集を3回にわたって組み、市民の理解を得ようと懸命。運営費の市費負担を軽減し、浮いた分の公費を保育時間の延長や低年齢児保育などの要望にこたえる財源に回すという「保育サービスの充実」を掲げ、同時に多様化する市民要望に対応するため−との理由を付加している。

土井課長は「南国市には図書館も文化会館もない。こうした施設を求める市民の声もあるし、高齢社会に向けた社会基盤の整備も必要。子育て、人材育成のためといわれるが、保育にいくらでも金をかける−という時代ではなくなった」と状況を説明する。

しかし、保護者会には「保育の切り捨て」としか映らず、“民営化=保育の質低下”の図式が浮かぶだけだ。西田会長は「行政は少子化を持ち出しているが、要するに保育予算を減らしたいだけ。財政圧迫を言うなら、公共工事など見直すべきところは別にあるはず」と市側の根拠を一蹴(いっしゅう)する。“少子化”をキーワードに派生した保育所問題の波紋は大きく、今のところ合意点はどこにも見つからない。(少子化問題取材班=鈴木斉)


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