少子社会の波紋〜揺れる地域から

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高知県南国市[上]

子供の声が聞こえない。そんな寂しい地域には絶対にしたくない−。土佐湾に面した高知県南国市は今、公立保育所の統廃合、民営化をめぐって激しく揺れている。少子化の影響などで保育所運営費が市財政を圧迫してきた−として、大掛かりなテコ入れ策を打ち出した行政側に対し、保護者らが「子育て支援は行政の当然の責任」と猛反発しているためだ。廃止、民営化の波紋が人口4万8,000人の小都市を包み込んでいる。

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南国市には現在、14カ所の公立保育所と2カ所の民営保育所がある。高知市に隣接する同市は人口の微増傾向が続いているが、小学入学前の子供の数は年々減少し、1987年の3,300人余が97年には2,700人、実に10年間で600人も減った。当然、保育所の入園児も1,430人から1,180人へと250人も少なくなっている。

ところが、市負担の保育所運営費は年々膨らみ、89年度の5億9,000万円が96年度には7億6,900万円に増えた。公立保育所では運営費の9割が人件費であり、この人件費抑制策として、市は一部民営化と統廃合計画を進めている。民営化と統廃合対象の保育所の職員を、存続する他の公立保育所に回し、各保育所の臨時職員を削減していこうという方針。民営化可能保育所は8カ所、統廃合は現在入園児18人の岩村保育所を廃止し、約2キロ離れたあけぼの保育所に統合する案だ。

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廃止対象となっている南国市の岩村保育所。老朽化した建物は、園児数が少な過ぎて建て替えもできない
岩村保育所は南国市中心部のJR御免(ごめん)駅から東側に車で数分。のどかな空気に包まれた畑地の中に、築35年の古い保育所が建っている。87年には50人だった園児数も96年は12人に減少し、昨年はいく分回復したとはいえ、市内では最も規模の小さい保育所だ。岩村地区の全体人口は横ばいだが、子供の数はやはり年々減少。同保育所はこうした少子化の影響をもろに受けた格好になる。

この超小規模保育所に職員は5人いる。他の園児100人規模の保育所職員が十数人なのに対し、いかにも多い。市民生課の土井信幸課長は(1)建物の老朽化が激しく、環境や安全面に問題が出ているが、園児数が少なすぎて建て替えの国庫補助の対象からも外れる(2)多くの仲間と学び合う集団保育の機能が損なわれてきている−と廃止理由を説明するが、人件費絡みの経費削減策で真っ先に目を付けたともいえる。

これに対し、同保育所保護者会の甲藤義歩会長(39)は「親は地元で預かってもらっているという安心感、温かさを感じている。保育所は子供が歩いて行ける地元にあるべきだ」と訴える。


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保育所は地域の灯−と語る甲藤義歩さん
統廃合政策で岩村地区には学校もない。保育所が廃止されると、残る公的施設は公民館だけになる。「子供は確かに減ってきているが、だからといって地域から子供の声が消える事態は何としても避けたい」。廃止反対運動の原点がここにある。

同保育所の廃止問題をめぐっては、市議会が96年3月議会で、保護者会などから出された存続の請願を全会一致で採択。市側にとっては大きな足かせとなっているはずだが、昨年1月にまとめた市保育行政計画では「議会の存意を尊重し、保護者や地域住民の理解と協力を得て廃止する」と明記。保護者会などに対する説明会も何度か開き、廃止実現に全力を挙げる姿勢を貫いている。

甲藤さんは言う。「小学校も廃校になった今、保育所は地域の“灯(ともしび)”なんです」。(少子化問題取材班=鈴木斉)

十勝毎日新聞社は今年、少子化にスポットを当てた年間キャンペーン「21世紀からのメッセージ−少子化時代を考える」を展開する。第1部では少子化に伴う保育所の統廃合、民営化に揺れる高知県南国市、空き教室を老人施設に転用している神奈川県横須賀市と埼玉県川越市、多角経営に乗り出す園児服メーカー(山口県防府市)、生き残り策を模索する学生服の町(岡山県倉敷市)、さらに競争激化する学習塾事情(大阪市)の実態を報告、問題を考える契機としたい。


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