WEB TOKACHI
十勝毎日新聞社
WEB TOKACHI
Obihiro Tokachi Hokkaido Japan
[2008.10.13] >>> 目次ページに戻る
夫が最後まで身に着けていたネックレスと大事にしまっていた釣りざお
失 跡



35年間一緒にいてくれてありがとう


 「プライドが高く、面倒見のいい人だった。内面がとてもナイーブだったことには気付かないまま(結婚生活は)終わっちゃった」。50歳代の夫に先立たれた十勝管内の川井洋子さん(59)=仮名=は、力なく苦笑いする。

冬の河川敷に夫の遺体
 2006年冬、夫は行方が分からなくなってから1週間後、自宅からそう遠くない河川敷で遺体で見つかった。検視した警察には「一酸化炭素中毒による自殺」と説明されたが、「そんなはずはない。自殺する人ではない」と受け入れられなかった。しかし最近、「もしかしたらノイローゼだったのかも」と思うこともある。

 管内のスーパーに勤めていた夫は、仕事、仕事の毎日で、売り上げを伸ばすことが生きがいだった。30年以上勤務し本社で管理職に昇格。「何より仕事優先だった」。仕事の付き合いがあった60歳代の男性は「仕事のできる男だった」と振り返る。

 亡くなる13年ほど前、管外に単身赴任。1年余り後、再び管内に。それから10年、56歳の時、突然「会社を辞める」と言いだした。「何事も事後報告で、理由は言わなかった」。夫はいったん退社して嘱託社員に。亡くなったのはこの3年後だ。

 夫が死に追いやられた原因を探した川井さんは、仕事の上で付き合いがあった友人に気になる話を教えてもらった。「管内に戻ると(川井さんの夫の)部下だった人はみんな退職していた。付き合いがあった取引先との契約も切られ、仕事ができる状況にはなかった」と。真偽は確認できないが、川井さんは「仕事をさせてもらえなくなり、気力がうせていったのでは」と想像する。しかし「なぜ仕事をさせてもらえなくなったのか? なぜ嘱託で残ったのか?」と次の謎が浮かび、最後は「どうして」という疑問に突き当たりため息をつく。

 失跡前日は、孫の学芸会があり、夜は家族みんなで食事するはずだった。前々からの約束にもかかわらず、夫は「仕事がある」と急きょ欠席。疲れた様子で帰宅したのは夜遅くで、川井さんが「薬でも飲む」と尋ねると、「いい。養命酒を飲むから」。これが最後の会話になった。

消えない頭の中の疑問符
 翌朝、目を覚ますと夫は家にいなかった。出社していないことも分かり、警察に捜索願を提出。翌日と翌々日に夫から手紙が届いた。「35年間、一緒にいてくれてありがとう」。遺書とも受け取れる内容で、仕事のことには一切触れていなかった。

 間もなく2年。夫の苦悩は依然、はっきりしないが、「そろそろ清算しなきゃいけない時期だと思っている」。頭の中の疑問符は消えないが、川井さんは少しずつ自分を取り戻しつつある。
(吉良敦)
「生きる」へのご意見、感想をお寄せください。ファクス0155-25-2700、Eメールikiru@kachimai.co.jp

>>> 目次ページに戻る
(C) TOKACHI MAINICHI NEWSPAPER >>> WEBTOKACHI トップ