WEB TOKACHI
十勝毎日新聞社
WEB TOKACHI
Obihiro Tokachi Hokkaido Japan
[2008.01.09] >>> 目次ページに戻る


みとり介護マニュアル(写真上)と、佐藤さんの焼酎とコップ(同下)。飲む量を減らそうと職員が2杯目用に小さいコップを用意した。
6. みとり介護



「うまいな」言い残す
好きな酒味わい
最高の最期

 「亡くなる寸前まで好きなお酒を飲み『うまいな』と言い残して逝く。お義父さんにとって最高の最期でした」

 2007年4月。鹿追町の特別養護老人ホーム「しゃくなげ荘」(山本進施設長)で佐藤秀男さん(89)は職員に見守られながら亡くなった。長男明弘さん(56)の妻寿美江さん(53)は義父の逝き方を回想し、穏やかな表情を見せる。

 最低限必要な医療体制を確保し、介護施設で最期を迎える「みとり介護」を導入する施設が増えつつある。しゃくなげ荘ではターミナルケア(終末介護)の対応マニュアルを作った。家族の同意書やみとり計画書をそろえ、昨年は2人を引き受けた。

 佐藤さんをみとる態勢づくりを始めたのは、昨年3月。家族と医師、担当看護師が同意書を交わし、積極的な治療をしない代わりに緊急対応と連絡態勢を整えた。

 この少し前、佐藤さんは食欲が減退し、発熱が続いた。検査、入院という“ライン”に乗るはずだったが、検査を拒否。言い出したら利かない性格を知る家族は、説得を半ばあきらめていた。

本人の意思尊重
 「ここで死にたい」。佐藤さんは以前から周囲に漏らしていた。明弘さん夫婦は「最期を迎える場所が施設でいいのか、そもそもできるのか」と悩んだが、「自分で選んだのであれば」と同意。

 看護師として病院で亡くなる人を数多く見てきた寿美江さんは「日々の生活を送りながら逝くのは幸せだが、死にたい所で死ぬのが今は難しくなっている」と打ち明ける。それだけに職員の献身的な姿勢に感謝の気持ちでいっぱいだ。

 亡くなる朝、佐藤さんは「酒が飲みたい」と訴え、薄めた焼酎を1口飲んで「うまいな」。2時間後に息を引き取った。

 家族が到着した時、故人を取り囲んで職員がすすり泣いていた。寿美江さんのまぶたにはその光景が焼き付いている。「病院では死後の段取りに追われ、悲しむことを忘れてしまいがち。家族の死を悼む理想の姿があった。お義父さんも幸せだったでしょう」

静かな終わり方を
 「すべてを娘の順子に預けます」「延命器具を付ける治療をお断りします」−。母親の幸江さん(94)=仮名=を看病する二女順子さん(59)=同=は12年前、2通の覚書を幸江さんから受け取った。音更町の順子さん一家に身を寄せた母親が、意思表示できなくなったときに備え書き記した。

 「母のすべてを背負った気がしてつらい時がある」と順子さんは漏らす。しかし、母の思いに応えたい。葬式、納骨…できる限りの考えを聞き取った。「最期は静かに過ぎていく終わり方をさせたい」

 幸江さんはしゃくなげ荘に入所中だ。「みとり(介護)もいいかな」。順子さんの胸中にそんな思いが芽生えている。
(安福晋一郎)

(題字は長沼透石氏)


>>> 目次ページに戻る
(C) TOKACHI MAINICHI NEWSPAPER >>> WEBTOKACHI トップ