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十勝毎日新聞社
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Obihiro Tokachi Hokkaido Japan
[2008.01.04] >>> 目次ページに戻る
尊厳死を選択した大野さん(左)。自宅で介護する父・春正さんは穏やかな表情を見せる(塩原真撮影)
1. 尊厳死 (上)



最後まで自分らしく
精神的な支えは
家族とわが家

 「最後まで自分らしく生きたいんです」

 大野和枝さん(60)=帯広市在住=は静かに語る。看護師として多くの患者の臨終に立ち会い、今は父親を在宅で介護する。精神的なつらさを訴える入院患者と、自宅で穏やかな表情を見せる父親。さまざまな人生経験から選択したのが「尊厳死」だった。

 日本尊厳死協会(本部東京)に登録したのは2007年3月。その後、延命措置の拒否などを記した意思表示カードを手にした。「病気が治る見込みがなく、自分らしい精神活動もできず、機械的に生かされたくない。死を自分のものとしてとらえたい」

 30年以上、札幌で看護師として勤務。がん患者らを月に5、6人みとることもあった。おいしそうに水を飲んだ後、安らかに眠りについた働き盛りの30代男性。がんで入院していたが、予期しない突然の死だった。死に慣れることはなく、涙があふれた。

家では落ち着く
 「みとり」は病院の大切な役割と理解している。同時に、入院しているだけで精神状態が不安定になる患者が多いと感じていた。「病院は健康でない状態を回復させる場所。精神的な支柱はやはり家族で、みんなに見守られて最期は自宅で過ごしたい」。そんな思いが強くなった。

 「帰るぞ」。06年に肺炎を患って以来、入退院を繰り返す父親の春正さん(88)は、入院のたびにそう言って病院のベッドから抜け出そうとする。痴呆の症状が進み会話での意思疎通は難しいが、家族や愛犬に囲まれた家で落ち着いた毎日を過ごしている。

 「住み慣れたわが家は、記憶にある安心できる場所なんでしょう」。優しく父親の手を握る大野さんは、自身の希望と同じように、自宅でみとることを決めている。

本人の意思尊重
 「本人の意思がないまま治療をやめれば、安楽死になる恐れがある」。同協会道支部帯広とかち地区懇話会の鎌田利道会長(70)は指摘する。終末期患者の人工呼吸器を外した医師の行為が社会問題になったこともある。「だからこそ、健康な時に自らの意思を示しておくことが大切」と、リビング・ウィルの重要性を強調する。

 死に方は、その人の生き方が凝縮された終着点とも言える。尊厳死に否定的な意見があることも踏まえて鎌田会長は願う。「尊厳死の是非を議論するつもりはない。ただ、本人が希望する死に方を大切にする社会であってほしい」
(池谷智仁)

(題字は長沼透石氏)

尊厳死 不治かつ末期状態に至った時、自らの意思で延命措置を断り、自然の死を受け入れること。日本尊厳死協会の会員は(1)不治の病で、死期が迫った場合の延命措置の拒否(2)最大限の苦痛を和らげる措置の実施(3)数カ月にわたり植物状態になった時の生命維持装置の取り外し−が書かれた「リビング・ウィル」(生前発効の遺言書)に登録。医師に示すことで、本人の希望を伝えることができる。


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