WEB TOKACHI
十勝毎日新聞社
WEB TOKACHI
Obihiro Tokachi Hokkaido Japan
>>> 目次ページに戻る

農村観光


環境、景観が地域支える

アレルギー治療で長期滞在
 [2006.06.27]
アレルギーを治療
「サンタ・マリア・クリニック」には赤ちゃんから若者まで、アレルギーやぜんそくの患者が国内各地から訪れて治療に当たる
 「素晴らしい景観ときれいな空気。花粉のレベルは低く、高地なのでダニもいない。アレルギーの子供たちにはとても良い環境です」

 バート・ヒンデランク行政区内で最も高い標高1130メートルのオーバーヨッホ村にあるアレルギー・ぜんそく治療の専門病院の1つで、子供や若者が対象の「サンタ・マリア・クリニック」。ブルーノ・アングステンバーガー事務長らの案内で広い院内を回った。

 呼吸法の訓練室、水浴で自然治癒力を高める伝統的な「クナイプ」治療のプール、体のバランスを整える運動療法室−。療法担当のルート・マッシンさんが「子供たちは将来のために、アレルギーとどう付き合うかを学ぶのです」と話した。

 病院は教会の運営で、1970年代に治療を開始。ダニや花粉アレルギー、アトピーなどが専門で、年間1800人が訪れ、平均4週間滞在する。院内には滞在用スペースもあり、政府の支援で病院専用の公立学校も併設している。

 「ここに来てとても良くなりました。親と離れて寂しいけど、今年の夏には帰れるんです」。英語の授業を受けていた16歳のジェニーさんがにこりと笑った。5年前にぜんそくを発症。病院に来て2年目だが、間もなく実家に戻る予定だ。

再び客として
 最近は患者が低年齢化し、保護者と一緒に来る例が多いという。アングステンバーガーさんは「彼らは退院したら、今度は観光客として、家族で村に帰ってくるんですよ」と説明してくれた。

 「ここの観光には3シーズンがある。夏と冬、そしてアレルギーシーズンだ」。同行政区のマクシミリアン・ヒルマイヤー観光局長は言う。

 アルプスの観光地である同地域を訪れる宿泊客は年間14万人、うち30%が治療の滞在客。局長がくれた地域の観光パンフレットには、景勝地や体験メニューと並び、「アレルギーからの休日」として治療・保養滞在の勧めが載っていた。

 地域の人口は6村で計5000人。昔から農業者が小規模に酪農、畜産を営み、素晴らしい景観と環境を育んできた。この「地域資源」が今、新しい形で地域の持続性を支えている。

 一方、その景観と環境を維持するため、農業は今も地域の大切な基盤となっている。

 70年代に200戸あったバート・ヒンデランクの農家は、農業の機械化・大型化が進む中、離農・離村が進み、80年代には半減した。

 「ここの景色は天然の自然でなく、人が作り上げた『耕作景観』。人々はその景色が変わってしまう問題に気づいた」とヒルマイヤー局長。85年にはEUと国の支援を受け、伝統農業と景観保護に取り組む「エコモデル・ヒンデランク」事業を、農業者自らが始めた。
(小林祐己)

 <バート・ヒンデランク>ドイツ南部バイエルン州のアルゴイ地方にあり、6村の総面積約140平方キロ。ハイキング、スキーを中心にさまざまなエコツーリズムを展開。1980年代半ばの観光客数約9万人が現在約1.5倍に。一方滞在日数は10年前の平均10日間から、7日間と短くなっている。日帰り客は年約100万人。
時代先取りの「条件不利地」

欧州唯一 地区全体で環境基準
特質生かし、多彩な顔を創出
厳しいルール
酪農兼業の農家民宿が多いウンターヨッホ村
 1992年、バート・ヒンデランクの農家全90戸で「ヒンデランク・自然と文化」協会を設立。(1)1ヘクタール当たりの家畜頭数は1頭(2)飼料の90%は地域内から供給−など厳しい環境保全基準を設けた。

 「コミュニティー全農地での規制は欧州初で唯一。この厳しいルールが景観を守っている」。観光に取り組む農家が増え、現在80戸が農家民宿を経営。閉鎖されていた乳加工場でのチーズ加工も再開した。農産物の直売も観光客に好評で、現在生乳、乳製品の40%が地域内で消費される。

 「農業なしに観光は成立しない。一方で観光があることで、農産物を直接良い価格で売ることができる」。9年前に移住して有機農業を行うウンターヨッホ村のエリック・バイスベンガーさんの農場・直売場には、年約5000人が訪れる。

 それでも一般的な同地域の農家の農産品販売と観光収入は、全収入の約半分。残りはEUの直接所得補償や景観保護の助成金だ。かつての「条件不利地」は、時代の要求をうまく先取りすることで、持続可能性の道を手に入れたと言える。

 十勝でのフィールドワーク経験を持ち、ヒンデランクを研究する埼玉大学教養学部講師の小原規宏さん(地理学)は、「ここの事例から学ぶべき所は、地域に固有、かつ多様な性格を見出し、それらをいかに結び付けて多彩な顔を創出するかということ。そうすれば刻々と変化する外部のニーズにもおのずと応えられる」と指摘する。

独自の未来像
 「環境先進国」とされるドイツを歩いて感じたのは、地方の自治体や団体、住民1人ひとりの自主自立意識の高さ。社会を変える大きな力は国の政策だが、それをうまく利用しながら、地域にあった独自の未来像を探る地方こそが主役なのだと強く思った。
(第3部おわり)

>>> 目次ページに戻る
(C) TOKACHI MAINICHI NEWSPAPER >>> WEBTOKACHI トップ