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十勝毎日新聞社
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Obihiro Tokachi Hokkaido Japan
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農業と環境


有機、エネルギーに活路

安価な輸入物増え、競争力失う
 [2006.06.25]
独自の厳しい基準
 土曜日の朝、フライブルク市旧市街の大聖堂広場で開かれる市場を訪れた。野菜やオリーブ、花などの出店が並び、人々が新鮮な品物を買い求めている。野菜の出店では、今が旬のシュパーゲル(アスパラガス)が山盛り。ドイツでは、白アスパラが緑よりも人気のようだ。

 広場の一角で、「BIOLAND(ビオラント)」など有機(オーガニック)農業団体の認証マークを示す野菜やチーズの出店を見つけた。こうした団体は、作物栽培や家畜飼育、飼料などに、EU(欧州連合)の定める基準より厳しい独自の基準を持つ。環境、健康を考える人たちの支持を得て、市場を広げているという。

有機野菜を買い求める人でにぎわう「ビオラント」農家の出店
 ドイツの有機生産物市場は約3900億円(2001年)とヨーロッパ最大。有機栽培に取り組む農家は全体の約5%。認証組織はビオラントなど主要9団体のほか、EU基準を満たす国家認定の統一マーク「BIO(ビオ)」がある。
 

 「生産量が少なくなったので、最初は採算が合わなかったけど今はうまくいっている」。同市郊外約60キロのシュワルベンホフ農場の酪農家ロスウィタ・ホウサーさんは、乳製品に付加価値をと考えて有機農業に転換、1992年にビオラントに加入を申請。5年間の経過期間を経て、97年に晴れて認証を手にした。

 農場は103ヘクタール。子牛を含め全100頭の牛を飼い、年6900キロの生乳を生産。自家製チーズなどを作り、市場でも売っている。畑27ヘクタールでは麦など穀物も栽培し、製粉場に販売していた。

全く売れない
 しかし「3年前に状況は一変した」とホウサーさんは表情を曇らせる。「EUに新たに加盟したハンガリー、ポーランド、チェコから半値で穀物が入ってきて、麦などは全く売れなくなった」。収穫期に畑に直接来ていた製粉場のトラックは、もう来なくなった。

 ホウサーさんの農場は政府の新エネルギー推進策による補助制度を使い、現在、200キロワット規模の発電能力を持つバイオガスプラントを建設中だ。見通しの立たない穀物販売の代わりに、一定価格が長期間補償される売電を始めるのだ。

 畑は13ヘクタールに縮小し、プラントで家畜ふん尿と混ぜるためのクローバーやエンドウなどの栽培を始めている。

 ドイツに約6000あるバイオガスプラントの約15%は農作物や食品残さが原料。再生可能エネルギー法04年改正で、農作物、ふん尿によるガス発電価格は通常のバイオガス価格より1キロワット時約9円高く設定された。

 同時に政府が補助・推進するのが、菜種などエネルギー作物によるバイオディーゼル製造。05年販売量は約200万トンと04年比で倍増した。
(小林祐己)

 <ドイツの農業環境政策>ドイツを含むEUでは1992年に直接支払制度を導入。環境政策として、環境負荷を軽減する農法、景観保護、耕作放棄地の維持管理などを行う農家への助成制度を持つ。条件不利地での農業存続、景観保護を目的とした補償金制度(農用地面積単位)もある。
  求められる多角経営の発想  

政策には疑問の声も
グローバル化で変化不可欠
 市場で野菜を売るヤーク・ダンネルさんと話した。フライブルク市の南7キロの農場約40ヘクタールでコーンやえん麦、小麦などの穀物、果物を栽培する。州基準に基づく低農薬栽培で、化学肥料は使わない。

 「グローバル化で農作物はポーランドから輸入した方が安い。もう作物を育てるだけではやっていけない」。彼も農家の厳しい現状を語った。

自ら育てた小麦で作ったパンを手にするダンネルさん
農家の誇り
 しかし、エネルギー作物栽培や環境保全を奨励する政府の農業政策には疑問を持つ。「われわれ農家は地域の食料を支えたいのに、まるで景観の管理者かエネルギーの経営者。私は農業者として生きていきたいんだ」。野菜の横に並べた、大きな自家製の窯焼きパンに、農家の誇りを感じた。

 シュツゥトガルト市で有機生産物を扱う生協執行委員のトーマス・ベッカーさんは「作物への補助金から直接支払いになり、農家は景観やエネルギーといった他の役割を担うように変わってきた」と話す。

 「今も農家は経営のために、いろいろなことをする。彼らの子どもの代はもっと多角経営になるだろう」−世界各国で農業事業のコーディネーターとして活躍するベッカーさんはこうも言った。「ブラジルの大豆がはるばる運ばれ私たちの家畜の餌になり、私たちは餌の代わりにエネルギー作物を育てている。これはおかしなことじゃないか」

国土の保全
 エネルギー作物を推進するドイツの農業政策について、帯広畜産大の梅津一孝助教授は「本来あるべきものではないとは思う」としながら、「東欧の安い農産物に対し、農業を守り、国土を保全する必要がある。作ってもらう手だてとして、エネルギーにして高く買い取るのはよく考えられたシステム」と評価する。

 変化への不満も聞かれたが、出会った農業者たちは、農家として生き残るという強い意志を持っていた。取材中、シュワルベンホフ農場の酪農家ロスウィタ・ホウサーさんは「26歳の息子も農業を始めた」と何度もうれしそうに言った。

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