年間キャンペーン第4部
日英
市民教育はいま

よのなか科・下


考える回路を“初期設定”

社会題材に問題掘り下げる


 
 総合的な学習の時間「よのなか科」を実践する東京都杉並区立和田中学校の藤原和博校長は著書「公教育の未来」の中で、「人づくりの基本、しつけは家庭にあるということに議論の余地はない。しかし、それができない家庭が地域によって5−7割あるとしたら、できない親に『家庭が基本』と説教しても何ら解決にならない」と指摘する。生徒をフォローすることが求められる現代では、学校が市民としての態度を教育する「最後の砦(とりで)にならなければ」と主張している。

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よのなか科の授業「どこまでいじくる?ヒトのカラダ」でゲストに招かれ、脳の機能について語る養老氏
養老氏もゲスト

 よのなか科の授業では時々、その日のテーマに沿ったゲストが招かれる。経済シリーズならベンチャー企業の社長、政治シリーズなら国会議員や行政担当者、諸問題シリーズなら女装愛好家や作家、ゲームデザイナーら。9月21日の「どこまでいじくる?ヒトのカラダ」では、著書「バカの壁」がベストセラーになった解剖学者の養老孟司氏が招かれ、グループ討論に加わった。

 養老氏は生徒の討論に耳を傾け、最後の10分間で「脳の機能」について話した。初めに「君たちの遺伝子は状況によって変化し、極端にいえば1つ目にもなり得る。また脳がなくても生きていられる」と紹介。その上で「もし、そういう人がいたらどう受け入れるかが問題だ」と述べ、偏見を持たないことの重要性を説いた。

 また、脳と睡眠の関係についての講義も。「脳は寝ている間にごみ掃除している。例えば、図書館で本を読んだ後、本を散らかしたまま帰っても次の日には本が整理され元に戻っている。図書館司書が整理、ごみ掃除するから秩序は保たれる。眠ることはこれと同じ」。さらに「だから覚せい剤は駄目だよ。いつまでも寝ないので掃除ができず、ごみがたまってしまうから」と訴えると、生徒や参観の大人は一様に大きくうなずいた。

 これまでの道徳の時間はどちらかといえば、良いことや悪いことについて教諭が教える「知識の教授」だった。それに対し、よのなか科は一歩踏み込んで「世の中のダイナミズムを教育に取り入れる」実践例だ。いわば「静」の教育から「動」の教育への挑戦であり、最終的には人づくりや市民教育への本格的なアプローチにもなる。

 この授業を参観していた卒業生は、昨年度のよのなか科の実践について「すぐに力がついたとか、考えが深まったとはいえないが、討論することによって少しだけ自分で物事を考えるようになった」と語った。

意識の芽植える

 よのなか科の授業は「世の中のさまざまな事象を通して意識の芽を植え付け、考える回路を初期設定させること」(藤原校長)であり、即効性を期待するものではない。むしろ「討論の中で自分の考えをほかに提示する行動が最も大事」と強調する。

 複雑多様な現代社会。よのなか科の実践は「単なる住民ではなく、地域の問題に積極的にかかわり責任を持とうとする市民づくり」の考え方に立つ。だからこそ自分の考えを広く伝え、市民として何ができるかを考える行動が重要と唱える。最終目標は自治を支える成熟した市民の姿だ。(道下恵次)(05.10.08)

<和田中学校>2003年、リクルート社で働いていた藤原和博氏を校長に迎えた。公立校としては都内で初めての民間人登用。同校長が着任してから「よのなか科」の実践をはじめ、図書館の改造、土曜寺子屋「ドテラ」の実践、地域との交流を図る地域本部の設置、校庭の芝生化などさまざまな改革に着手した。

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