年間キャンペーン第4部
日英
市民教育はいま

よのなか科・上


成熟した「市民」を育てる

社会生きる「教養」「態度」重視


 
 「性転換すれば親からもらった形質(キャラクター)を失ってしまう」「いや、自分の人生なのだから人がどう言おうと関係ない」

 東京都杉並区立和田中学校(藤原和博校長、生徒213人)で9月21日に行われた一般公開授業の「総合的な学習の時間」(総合学習)。性転換手術の是非について3年生が討論した。

 人の体を技術的に変えることが、中学生としてどこまで許せるかをテーマにした授業「どこまでいじくる? 人のカラダ」での1場面。50人の生徒が賛否を意思表示し、それぞれの立場から個人やグループとしての意見をまとめ、クラス全体で是非を考えた。

phot自分の頭で考え

 この授業ではさまざまな事象について、生徒たちが自分で考えるよう導く。反対意見を一通り聞いた後、「さあ反対派をどう切り崩す?」と藤原校長が容認派にボールを投げた。

 同校の総合学習は2年前から独自の取り組みを始めた。授業名は「よのなか科」。「これまでの教育では情報処理能力の高い人材は量産したが、自分の頭で考えて自治を行う『市民』を育てきれなかった」。授業の提唱者である藤原校長は、戦後から現代に至る教育事情をこうとらえる。

 高度成長を経て成熟した社会にありながらも、さまざまな問題が横たわる今の世の中。どちらかといえば、戦後教育は幸福になる公式を「学歴」に求めて「正解主義」に傾き、考えることなく正解に沿って自動的に行動する子供を量産してきたと映る。藤原校長はこれを「危機」ととらえ、「これからの時代に必要なのは複雑多様な成長社会を生きる『市民』としての教養であり態度だ」と強調する。

 よのなか科の授業では必ず藤原校長自身が教べんを執り、教員や民間のボランティアスタッフ数人がサポートする。この日の授業でも生徒6人の1テーブルに2、3人のスタッフが入り、論議を重ねた。

 「その性別になりたくて生まれたわけではない」「性転換は親が悲しむ」「親の心配も分かるが、親のことばかりを考えてはいられない」などと議論は白熱。公開授業を見に来た約80人の一般参加者も一緒になって考え、討論に加わった。

 2003、04年と同科のカリキュラムは経済、政治、諸問題の3シリーズでロールプレーイング(役割実演)やディベート(討論)、プレゼンテーション(提示)を実践してきた。

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生徒だけでなく一般参観者も加わり性転換について意見を交わす和田中学校の「よのなか科」の授業風景
社会問題に意見

 例えば、生徒が仮想のハンバーガー店の店長になってはやる、はやらない店を検証したほか、輸入の際の円高や円安為替についても学習。政治では自分の家の中を「国」ととらえ、自分の部屋をどう獲得しレイアウトするかを考えた。さらにニューハーフの存在を通した差別や差異、自殺問題、少年法、ホームレスなど世の中のあらゆる諸問題にも意見を出し合った。

 「これからの時代、ジグソーパズルが早くできるような自動的行動ではなく、自分の世界観や人生観を持って行動する『市民』づくりが必要だ」。よのなか科の実践でみえてくるのは、自治を支える成熟した市民をどう育てていくかという、現代社会に突きつけられた大きな命題だった。(道下恵次)(05.10.06)

<よのなか科>週1回、3年生を対象にした総合学習。経済の本質を学ぶ「ハンバーガー1個から世界が見える」シリーズでは価値の等価・差異、付加価値を体感。政治の本質を学ぶ「家の窓から日本が見える」シリーズは税金の徴収と再配分、「現代社会の諸問題を考える」シリーズは「正解のない社会問題」がテーマ。03年度は30回、04年度は27回の授業が行われた。

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