年間キャンペーン第4部
日英
市民教育はいま

子供の権利ワークショップ


互いの見解認め、自由に討論

結果導く過程で、育つ主体性


 
 「自分を子供の立場に置き換えて考えてください。身の回りのさまざまな権利について描かれた18枚のカードの中から、それほど重要ではないと思うものを外してください。そして、最低限必要と思える4枚を残し、その理由を説明してください」

 イギリス・ヨーク市にあるヨーク・セント・ジョーン大学構内の研修棟の一室。イギリスの市民教育を視察する「開発教育ツアー in York(ヨーク)」(NPO開発教育協会主催)のカリキュラムの1つとして行われた講義「子供の権利を考えるワークショップ」で、イギリス・ユニセフの教育担当者、シャーロット・ハント氏は、ツアー参加者に対してこのように課題を投げかけた。

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ツアー参加者の意見を聞きながら、子供の権利や市民教育の意義について語るハント氏(左から2人目)
一般的な手法

 イギリスの学校教育現場における市民教育の実践は、こうしたワークショップ形式のカリキュラムを導入するのが一般的。その中では、人権や世界平和、国際協力などの社会的な課題をテーマにしたものが多く、ツアーに参加した日本の教諭らが取り組んだワークショップも、国連の「子どもの権利条約」について学ぶ授業。イギリスの教育現場で実際に活用されている教材の1つという。

 18枚のカードには「水」「住宅」「学校」「テレビ」「両親」「友人」「食糧」など、子供たちの身の回りで当然のように保証されている物事ばかりが描かれていた。参加者は複数のグループに分かれ、どのカードを残すべきかを論じ合った。しかし、すんなりと結果は出てこない。捨てきれないと思われるカードがいくつもあり、何より、人によってその見解が分かれるためだ。

 さまざまな価値観をどのようにまとめ、グループとしての回答を導き出すか−。この作業の中に、イギリス市民教育の柱となる概念が存在する。ワークショップは互いの見解を尊重し、自由に討論し合うことが大前提。さらに、導き出された回答は、平和や国際協力といった社会的な課題にも結び付けられていく。自分たちには何ができるか−。それを導き出すまでの過程を大切にしている。

責任感に気付く

 「子供たちは社会とのつながりや、さまざまな権利や価値観、責任について気付くだろう。これこそが、民主主義社会への参加をうながす原動力になる」。ツアー参加者の討論が盛り上がったころを見計らい、ハント氏はワークショップの意義と市民教育の可能性について力を込めた。

 「周りの意見を理解し、集団の見解を導く難しさと、その過程で生まれる責任感について身をもって体験できた」。関西地方の中学校に勤める男性教諭は、ワークショップをこのように振り返った。そして、帰国後、自分が受け持つクラスでこうしたワークショップを取り入れることを提案し、「主体性をはぐくむ教育こそが、今の日本にも求められる」と言い切った。その言葉には、日本が抱える教育現場の課題が示されていた。
(杉原尚勝)(05.10.04)

<子どもの権利条約>基本的人権が子供にも保障されるべきことを国際的に定めた条約で、1989年11月、国連総会で採択された。「生存」「保護」「発達」「参加」といった子供の包括的権利について明文化しており、現在192の国と地域が締結する。子供の基本的人権の実現を使命とするユニセフの活動は、イギリス市民教育のカリキュラムの中に多く取り入れられている。

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