年間キャンペーン第4部
日英
市民教育はいま

グローバル教育センター


民主主義再生の願い込め

「多様な価値観」の理解訴える


 
 「テロは決してあってはならない。しかし、一方的な見方に偏ることも問題だ。背景を正しく理解し、市民1人ひとりに何ができるか考えることが、テロを生まない社会の実現につながる」

 イギリスの首都ロンドンから北に280キロのヨーク市にある「グローバル教育センター」。同センター主宰のマーゴ・ブラウン氏が、7月にロンドンで起きた同時テロに言及すると、日本の現役教諭らが真剣に聞き入った。

 8月11−20日。イギリスの市民教育を視察する「開発教育スタディーツアー2005 in York(ヨーク)」に、日本の教諭ら8人とともに参加した。主催は、貧困・環境・人権・平和など地球規模の問題について考える国内ネットワーク組織「NPO開発教育協会」(田中治彦代表理事)。

 テロの衝撃が癒えない時期だっただけに、ツアー参加者の思いは複雑だった。イギリスの市民教育には、「人づくり」を積み上げ、健全な社会や世界を実現させようとする強い意志が込められている。初っぱなからテロという未曾有の出来事にぶつかり、市民教育は過渡期と言うよりも、まだ始まったばかりという現実を突きつけられた。

 そんな中で聞いた「テロを生まない社会−」というブラウン氏の言葉にこそ、市民教育が歩むべき将来像のヒントが隠されているように感じた。

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イギリスの市民教育について、ツアー参加者に説明するブラウン氏(右)
 先端の教育機関

 同センターでは、人権や社会の公正などをキーワードに、さまざまな学問分野で実践できるカリキュラムや教材を開発。国内の学校に提案されたそれらは、実際に現地の教育現場で活用されている。イギリス市民教育のソフト分野を担う、先端の教育機関でもある。

 「イギリスの民主主義が大きく揺らぎ、いわば必要に迫られる格好で市民教育は生まれた」。ツアー初日のセッションでブラウン氏は、イギリスの市民教育誕生の背景をこのように説明する。そして、期待を込めて次のように続けた。「子供は将来の市民。市民を育てるのが市民教育であり、その実践はイギリス民主主義を再生する原動力になるはず」

増える社会不安

 イギリス市民教育が産声を上げたのは、深刻な不況に見舞われた1990年代後半。当時、若年失業者が街にあふれ、若者の反社会的な行動が問題視された時期と重なる。社会的な不安定さを象徴するように、このころ行われた総選挙は、若い世代を中心に投票率が大きく落ち込んだ。

 「市民として権利を行使するためには知識と技術を身に付けることが不可欠。しかし、それ以上に、多種多様な価値観を理解することが大切」とブラウン氏。ここには、多様な社会構造と、それに起因した問題を抱えるイギリスの実態があり、市民教育カリキュラムの中で人権や国際協力、世界平和などのグローバルな視点が欠かせない。

 イギリスを震撼(しんかん)させた同時テロは、まさに文化、宗教的価値観のあつれきにほかならない。ブラウン氏のそれぞれの言葉には、市民教育が果たすべき役割の重さが込められていた。(杉原尚勝)(05.10.03)

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 一般には耳慣れない「市民教育」という実践が注目され始めている。「社会の中での活動を子供たちに伝える」のが市民教育であり、低下が指摘される「生きる力」を養うことがテーマの根底にある。年間キャンペーン「十勝の『人間力』−地域連携のひとづくり」の第4部では、市民教育に先進的に取り組むイギリスと日本国内の事例をリポートする。

<市民教育>子供たちが将来、市民としての十分な役割を果たせるよう、幅広い知識やスキル(技量)を身に付けさせる教育。イギリスでは2002年から、必修カリキュラムとして中等教育に導入された。日本の「総合的な学習の時間」やボランティア学習とも合致した内容だが、これをさらに進め、独立した教科として取り組む学校があるなど、国内でも徐々に浸透している。

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