年間キャンペーン第3部
人材の掛け橋
パイオニアたちの挑戦

「ゆうとネット」代表・田巻憲史さん(31)


人の輪広げる原動力
気持ち伝える難しさに直面



■付き合う覚悟

 正直、困ったなというのが最初の印象でした。勉強をしているお母さんの方が、僕なんかよりよっぽど情報に詳しかった。でも、ここで「どうしようもない」とあきらめてしまっては、対応が画一的な行政機関と一緒。始めるからには責任があるし、優都君とはずっと付き合っていくという覚悟がありましたね。

 2001年8月、西村優都君(帯広広陽小学校5年)の母ひとみさん(42)が帯広協会病院の福祉相談室を訪ねた。広陽小への入学が「特例」として認められた優都君は、既に学校生活をスタートさせていた。しかし、家族が都合で付き添えない場合、優都君は学校を休まざるを得ない。家族からのSOSに応えるべく、手探りの論議が始まった。

phot

笑顔で心を通わせる田巻さん(右)と優都君。支援の輪は少しずつ広がりをみせる(山下僚撮影)

■人が集まらず

 最初に頭に浮かんだのはソーシャルワーカーの仲間たちでした。勝手に案内状を送りつけて協力を仰ぎましたが、なにせ人材不足の上にお金がない。ボランティア看護師の募集チラシはパソコンで作り、スーパーや郵便局などに張らせてもらいました。

 会の名前は早々に「ゆうとネット」に決まりましたが、肝心のボランティアはなかなか集まりません。“白衣の天使”なんだからという安易な思い込みがあったんでしょうね。冷静に考えてみると、交通費を含め援助は一切なし。現職の看護師さんには夜勤明けのボランティアをお願いすることもあるわけですから、なり手が少ないのは当然と言えば当然です。

 それでも徐々に協力者が名乗りを上げ始める。現在、ボランティア看護師の登録数は十数人。このうち4人が不定期ながら“実動部隊”として優都君に付き添う。最近では看護資格を持たない人たちにも支援の輪が広がっている。「広い層に関心を持ってもらいたい」という強い思いが人を動かし、人の輪を広げる原動力となる。ただ、仕事の合間を縫って奔走するという厳しい条件は、コーディネート役を担う関係者も同じだ。

■温かかった学校

 自分自身、大変だとは思わないですね。そんなに深く考えないたちなのかな。優都君の変わっていく様子や楽しそうな顔を見られるのが何よりです。優都君は話好きで明るい子ですが、本人が一番努力している。話し方も家族にだけ理解できた入学前とは違い、今はみんなに分かるように工夫しているようです。学校には好きな女の子もいるようだし…。何より著しく変わったのは、優都君を温かく迎えた学校の雰囲気という話も聞きます。

 一方で課題も少なくない。看護資格のある介助員の学校配置がその1つ。さらに、支援の輪を広げる方策が「手詰まり」の状態で、活動自体が過渡期という現実に直面している。

 実は帯広市はボランティア看護師の認可という、他市にないすごいことをしてくれているんです。でも、それ以上に看護師資格などを持つ専門職の介助員を学校に配置することが必要で、これまで陰の存在だった「ゆうとネット」が、組織として制度化の要望書を提出することなども考えています。それと「人の輪」については全然満足していません。きっかけとしての第一歩をどう踏み出してもらうか、僕らの気持ちをどう伝えるか。とても難しい仕事ですが、途中で投げ出すわけにはいきません。

(國井正行)(05.07.04)

◇−−−◇

 十勝では今、新たな人材をはぐくんでいこうという機運が、各方面で高まっている。その中心となる人たちは、難しいとされる「人づくりの輪」をどう広げようとしているのか。年間キャンペーン「十勝の『人間力』地域連携のひとづくり」の第3部では、人材育成の懸け橋となるパイオニアたちの挑戦を紹介する。

 

<ゆうとネット>帯広広陽小の肢体不自由児学級「すずらん学級」に通う西村優都君らを支援するため、市内の医療関係者らで組織。その中心を担う田巻さんは、帯広協会病院のソーシャルワーカー。優都君は人工呼吸器を付け、気管切開に伴うたんの吸引などの「医療的ケア」が日常的に必要。

|1|index


HOME