生きる力の源泉
全国先進地ルポ

静岡県・藤枝市おばあちゃん劇団「ほのお」


「燃え尽きるまで」社会に参加
演劇通じて自己再発見


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758回の公演

 「今の年寄りは甘え過ぎ。体や頭が動く間は、社会活動を続けないとね。脳みそも筋肉も、使わなければ衰えてしまいますよ」。今年で創立30年を迎え、昨年末までに758回の公演をこなした静岡県藤枝市のおばあちゃん劇団「ほのお」。主宰する大石さきさんは88歳の今も脚本家、女優と、さまざまな顔を持つパワフルな女性だ。    
 大石さんが保健師を定年退職した昭和50年代、高齢化問題が社会をにぎわせ始めていた。「自分の気持ちも織り交ぜ、高齢者の思いを多くの人に伝えたい」と仲間に呼び掛け、同劇団の前身「ともしび」を設立。劇はすべて大石さんの創作で、「痴呆」「遺産問題」「連れ合いに先立たれた老人」など、高齢者を取り巻く社会問題を題材とする。その大半が、訪問介護をしていたときの経験をヒントにしている。

 「社会問題は長い文章や口頭で説明されても、分かりにくいもの。演劇なら難しいことも頭に入り、記憶に残りやすいと思いました」

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88歳の大石さん(右から2人目)を筆頭に、精力的な活動を続けるおばあちゃん劇団「ほのお」のメンバー

県外への遠征も

 劇団は現在、62歳から88歳までの女性5人で活動。要請があれば、遠くは福岡や山梨、東京までと、ジャンボタクシーを借りて県外への遠征もこなす。その精力的な活動は県内外に響き渡り、渡邊孝好監督、淡路恵子ら著名女優主演の映画「ぷりてぃ・ウーマン」(2002年)のモデルとしても話題になった。

 当初は同年代のお年寄りが観客の大半。家族の問題などを取り上げる劇を見て、「うちと同じだ。分かる分かる」と共感してくれる人ばかり。転機となったのは10年ほど前、東京の幼稚園から公演の依頼を受けたときだった。

 「都会の子供たちが田舎の祖父母と会うのは、亡くなったときぐらいじゃないですかね。公演後に握手をしたら、『おばあちゃんの手、温かい』と喜んでくれたのが新鮮でした」と大石さん。以来、小・中学校でも公演を重ね、「嫁姑問題」「卒業」など、観客に合わせたテーマを舞台化している。今や彼女たちは県内の著名人。町を歩くと、若い人からも握手を求められることがあるという。

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アドリブで成立

 せりふはあえて覚えない。大まかなストーリーは決めているが、劇は役者それぞれのアドリブで成り立つ。役者たちも劇中に感情が高ぶり、思わず本音が出ることも。大石さんは「自分でもこんなことを感じていたのか、と驚かされることがあります」と自己再発見の効果を強調する。

 昨年12月、舞台の様子を収めたビデオを見せてもらった。立ち居振る舞いや発声は確かに素人。しかし、細かいやりとりや独り言がリアルで、身近な人々の会話に参加しているような錯覚を覚える。何より、演じる団員たちの表情の輝きが印象的だった。

 「できないから−とさじを投げるよりも、できることでいいんですよ。生きている限り、自分も何かの役に立てると信じることが大切です」

 創立25年に大石さんが書き下ろした、劇団のテーマソングがある。「たった一度の人生だもの。燃えて楽しい思い出を。ああ夕暮れにも光あり」

 「ほのお」のプリティーウーマンたちは、見せることで観客を、演じることで自分たちを育て続けている。(梅庭寛子)(05.1.7)
 

<劇団ほのお>静岡県藤枝市大洲2丁目。1975年、「劇団ともしび」として旗揚げ。87年に「燃え尽きるまで続ける」と、「劇団ほのお」に改名。2002年には厚生労働大臣賞を受賞。「お年寄りの視点からとらえた高齢化問題」を題材とした演劇に取り組み、県内外で公演している。高齢者の積極的な社会参画のモデルケースとして、知名度が高まっている。

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