生きる力の源泉
全国先進地ルポ

神奈川県・相模原市「子どもアントレプレナー体験事業」


経営通じ挑戦の心育成
30年後を見据え教育


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暗記脱皮が急務

 本物の経済活動を通し、子供の「考える力」や「失敗を恐れず挑戦する精神」を養う「子どもアントレプレナー体験キャンプ」。実行委員会を立ち上げて主催する「さがみはら産業創造センター」(神奈川県相模原市、里見昭社長、略称SIC)が5年前から取り組む同事業は、同市内から100近くの民間企業や個人、行政機関の協賛を得るまでに成長した地域ぐるみの人材育成事業だ。
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 起業家育成、創業間もない企業の支援などを通し、総合的な新事業創出に取り組むSIC。最先端の経営理論を学ぶ「経営塾」や、大学生対象の「ビジネススクール」など、数々の人材育成事業も手掛ける。

 子どもアントレ−もその一環。SICの松井利夫会長は「起業家育成に直結しなくてもいい」と割り切り、「ビジネス的思考を養うのは将来を担う子供たちに不可欠。『考える力』が求められる昨今、暗記教育からの脱皮が急務」と事業に期待を寄せる。ビジネス的思考とは、「普遍的に起きている事象を的確に捉え、それを正しい方向に導き昇華させること」だと松井会長は説く。知識を詰め込む「暗記教育」で決定的に欠落する点であり、こうした旧来型の教育を受けてきた記者自身にとっては、まさに「目からうろこ」だった。

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自分たちの商品を販売する子供たち。元気いっぱいに商品を売り込みながら、身をもって経済活動を学ぶ

市場で商品販売

 夏休みに行う3日間の体験キャンプは同市内の小学生が対象。会社設立から決算までの全過程を子供たちが行う。特筆すべきは、本物の現金を扱って実際の市場で商品販売を行う点。子供の真剣度が違ってくる。

 「絵空事から現実をつくる。考えを形に落とす作業が大切」と説明するのはSICの山本満企画事業部長。3日間で最も重要なのが事業計画を立てることだという。

 6人1組の「会社」単位で市場調査し、事業計画を検討。次に仮想の銀行で融資交渉を行うが、担当するのは本物の銀行員だ。子供だからと審査は甘くない。計画の不備を指摘しては何度も突き返す。子供たちも「何が足りなく、どう変えればよいか」を徹底的に討論して事業計画を練り上げるが、その表情は一様に明るい。失敗を恐れず挑戦する精神はこうしてはぐくまれる。

 「この過程こそ考える力を養う重要な点。失敗する事業主のほとんどは的確な事業計画を立てられない」と、数々の起業家支援をこなした山本部長は指摘する。

 交渉が成功すれば、材料を仕入れて製品製造。最終日には市内大型スーパーの一角で子供たち自身が販売し、ディスプレーや接遇マナーを身をもって体験する。

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人材を生む種に

 里見社長は「企業経営は30年後の会社像を見据えて行うが教育も同じ。成果は歴史が示すものだが、そのためには今が大切」と強調する。

 子どもアントレ−は、次世代を担う人材を生む種。やがて芽吹いたその種が「起業」の花を咲かせ、「成果」の実を結ぶまで、SICは長期的視野のもとに事業を継続していく。(高田敦史)(05.1.4)
 

<アントレプレナー>起業家を指す英語。欧米では学校の正規カリキュラムとしてアントレプレナー教育を導入し、起業家マインドを持つ人材育成に力を注いでいるが、日本ではまだ一部の大学などで始まったばかり。子どもアントレプレナー体験キャンプでは定員30人に対し、相模原市内から100人を超す申し込みがある。

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