生きる力の源泉
全国先進地ルポ

石川県・金沢市西南部小「金森学級」


「命の奇跡」仲間と共有
情操教育の最高峰と評価


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「すっごい人間」

 「ぼくたちはただの人間じゃなくて、すっごい人間なんだなぁと思いました」。昨年12月、冬休みを目前に控えた金沢市立西南部小学校(森眞治校長、609人)3年2組。「いのちの学習」で感想を読む松川尚矢君を見詰める66の瞳は輝いていた。
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 「ここにいるのは、当たり前のことではない」。ごつい顔、太い声。学級担任の金森俊朗教諭(58)はゆっくり語り掛けた。前の週には同じクラスの北川真帆さんの母で、妊娠9カ月の圭子さんを教室に招き、命を宿す苦労と喜びを聞いた。チョウや稲など動植物の一生も4月から学習してきた。「自分は奇跡的な存在」。松川君の言葉は今や、みんなの思いだ。

 「仲間とつながりハッピーになる」を教育思想に、命の大切さを実感し子供たちが共感し合う。金森教諭が担任し学びを追求するクラスは、いつしか「金森学級」と呼ばれるようになった。一昨年、NHKで紹介され、親や教師の大反響を呼んだ。専門家からは「情操教育の最高峰」と評される。

 「命や存在そのものに出会わせると、子供は自ら学び出すんです」。教諭のほおが緩む。生きたニワトリをさばく、末期がん患者と対話する−。1980年代から、従来の学校教育の枠を超え、生と死を真正面から取り上げてきた。

 原点は、教諭が2人の赤ん坊を亡くし、その後自らも自動車事故で重傷を負いながら一命を取り留めた20代の経験だ。「生と死は紙一重の差。さまざまな危機を乗り越えてここにいる」。自身の実感だからこそ、子供たちは真剣に聞き入る。

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全国の注目を集める金森学級の「いのちの学習」。金森教諭が差し出した植物に目を輝かせる子供たち

手紙ノートつづる

 自分や家族の「命の危機」を調べることが、3年2組の冬休みの課題になった。翌日にはすでに、数人の子供が取りかかっていた。

 「おばあちゃんが『がんばれ』といったので、それまでながれていたなみだがとまりました」−。友達に向けて日々の喜怒哀楽をつづる「手紙ノート」。30年来続く金森学級のもう1つの特徴だ。クラスの谷内田純さんはノート3ページに「ケンカするけど世界一好き」という母と言い合い、家出したくなるほどのいら立ちを祖母に慰められた出来事についてつづった。

 「相談できていいな」「私のおばあちゃんは病気であまり話せない」。友達が手を挙げて自分のことを語り出す。心配そうな谷内田さんの表情は次第に、誇らしげな顔に変わった。

 1年を通したいのちの学習が子供の知的営みを導く金森学級の縦糸なら、手紙ノートは、1人ひとりの心をつなぐ横糸だ。教諭は「純だけの問題にせず、共有することがつながりを生む」と力を込める。

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心の現実変える

 授業時間の減少などで、対話する時間を確保することが難しくなった。「教育は子供の客観的な現実は変えられないが、心の現実は変えられる。できる限り学級で掘り起こし、ぎりぎりと問うのがわれわれの役割。これは闘いです」

 相次ぐ少年による凶悪犯罪や深刻化するいじめ問題−命や存在がもてあそばれる風潮が強まる。「生きる希望、自己肯定感を子供が創造し、実感していく場をどう保証するかが問われている」。こう言い切る先生の厳しく温かいまなざしは、生きる力を自ら紡ぐ子供たちを見詰め続ける。(栗田直樹)(05.1.3)

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 「人間力」「生きる力」を再生し、地域づくりにつなげようという動きが活発になっている。学校教育はもとより、生涯学習や産業、伝統継承、食からのアプローチなど、その取り組みには先見性と戦略が求められる時代になった。年間キャンペーン第1部では、旧来型の殻を破った人づくりを実践する、国内の先進事例を紹介する。
 

<金森学級>金森俊朗教諭による、子供が人と自然にじかに触れ合う教育実践。1980年代に妊婦や末期がん患者などと対話する「いのちの教育」を本格化。西南部小を含め石川県内の8校で約1200人の子供を送り出してきた。教諭は46年、同県能登の農家に生まれる。金沢大学教育学部卒。著書に「いのちの教科書」など。

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