ゆとりへの旅路
全国活性化ルポ

群馬県松井田町


廃線跡をゆっくり散策
知識伝えて文化財保存

◆◇−−−−◇◆

歴史の背景探索

 廃線跡を歩いた先の山あいに、“めがね橋”として名高い「碓氷(うすい)第3橋りょう」が赤いれんが造りの美しい姿を見せた。碓氷峠の急こう配を列車が上ってくる。そんな往時の姿を想像するだけで、鉄道ファンではなくても胸がわくわくしてきた。

phot
 同行してくれた竹馬達雄さん(78)=群馬県松井田町横川在住=は「ここを訪れる人は単なるウオーキングではなく、歴史的な背景を探索していくのさ」と魅力を語る。竹馬さんは旧国鉄OBで、町教育委員会に登録する文化財インストラクターの1期生だ。

 「峠の釜めし」で有名な横川駅のある松井田町は人口約1万7000人。群馬県西部の長野との県境付近に位置する。まちの転機は1997年、長野新幹線の開通に伴い、JR信越線の横川−軽井沢間が廃止された時に訪れた。

 同区間は日本最急こう配路線。横川には車両基地などもあり、松井田は鉄道の町として栄えた。鉄道関連だけで約2000人の人口があっただけに、過疎化・高齢化の進行は確実だった。町企画財政課の清水博課長は「横川までの在来線すら廃線の危機感があり、地域振興策が必要だった」と振り返る。

◆◇−−−−◇◆

phot

“めがね橋”を解説する文化財インストラクターの竹馬さん

遊べる資料館

 そこで地域資源として注目したのが、峠を中心とした鉄道文化と、国の重要文化財に指定された橋りょうやトンネルなどの鉄道遺産。94年、町はこれら遺産群を国鉄清算事業団から約4900万円で購入。廃線が決まり、地域の命運をかけた活用の段階に入った。

 99年、横川駅の隣接地に「碓氷峠鉄道文化むら」がオープン。約21億円を投じた大事業で、車両や鉄道関連の資料が展示され、列車運転体験もできる。園内はテーマパークというよりも、遊べる資料館といった感覚。年間入園者数は18万人台を維持している。

 最近、人気の高いのが、横川駅からめがね橋までの4・7キロの遊歩道「アプトの道」(2001年供用開始)。建設省(当時)などの補助を受け、約4億8500万円をかけて整備した。「訪れる観光客に、ゆっくり線路跡を歩いてもらうのが狙い」(清水課長)だ。

 県や町が策定した「横川・軽井沢間周辺整備等推進計画」も、ゆとり志向という近年の観光行動の変化を意識し、「歩くこと」「歴史と自然探訪」を重点項目とした。橋には高欄を取り付け、トンネル内壁も補修。今は観光客が、文化財の線路跡を自由に散策することができるようになった。

◆◇−−−−◇◆

住民が積極関与

 ここでボランティアガイドとして活躍するのが、竹馬さんらインストラクター。町教委が02年から養成講座を開設、第1期で18人、今年度は22人が新たに参加した。「案内がなければ歴史的背景が分からない。解説は好評で、人数が足りないくらい」(三浦尚明町教委文化財係長)という。

 竹馬さんは自身が勤務したれんが造りの丸山変電所を熱心に解説し、最後に「私が持つ知識を伝え、文化財を保存していくことが使命だと思っている」と付け加えた。歴史を伝えることで生み出す新たな観光的価値、そこに住民が積極的にかかわろうとする動きに、“鉄道の町”復活の可能性を感じた。(古川雄介)(04.1.7)

<碓氷峠鉄道遺産>1893年に開通した信越線・横川−軽井沢間の廃線跡。かつては軌道中央にラックレールを敷設し、車両の歯車をかみ合わせて走行する「アプト式」を採用していた。碓氷第3橋は国内最大のれんが造り4連アーチ橋。トンネル10門、橋りょう5基と変電所が1994年までに、近代化遺産第1号として国の重要文化財に指定された。

|5|index


HOME