年間キャンペーン第3部

十勝に吹く風
質と豊かさの実践

大  樹


本物の自然、食材で連携
増えるリピーター


■時間を忘れて

 「ここにいると、時間が止まっているみたいだ」―。

 サラサラとシラカバの揺れる音が耳に心地よい。大樹町萌和にある「インカルシペ萌和」。今月17日、札幌から個人ツアーの可能性を探りに訪れたANAセールス&ツアーズ北海道(札幌)の販売推進部商品企画グループリーダー松岡弘晃さん(45)は、帰る時間も忘れて森林浴を楽しんでいた。


「森の恵みをおすそ分けしてもらっているんだよ」。札幌から訪れた観光客に、シラカバ樹液の採取について説明する米山さん(左)

 アイヌ語で「インカルシペ」は「眺望のきく所」、モエワ(萌和)は「小高い丘」という意味。ここで約7ヘクタールの土地を所有し、コテージ(現在2棟、ほかにセンターハウスに宿泊用3室)を営むのが、大樹町で建設関連会社を経営する米山有年さん(71)だ。

 今から12年前。米山さんはここのシラカバやカシワなど原生林が伐採されると聞き、買い取ることを決めた。原始の森をイメージして1つひとつ手を加え、1998年にコテージを開設。早春の4月から約1カ月間だけ採取するシラカバ樹液を訪れた客に振る舞う。シラカバの木の間でハンモックに揺られ、森の魅力を存分に味わうことができる。昨年は日帰り客を含め500人以上が訪れた。大半は本州からのリピーター客だ。

 一昨年のこと、大阪から4人家族が泊まりに来た。森とコテージから出る様子がない。「周辺を案内しましょうか」と思わず申し出た米山さんに、父親は「そっとしておいてくれませんか。この環境が素晴らしいのです」と答えた。

 聞けば、父親は国際線の機長。フライトで疲れた神経を癒やすため、都会の喧噪(けんそう)から離れたこの場所を選んだ。以来、2年続けて家族は訪れている。

 インカルシペ萌和では食事を出していない。それは、同じ町内に個性ある牛肉、豚肉、牛乳、野菜などこだわりの食を生産し、加工販売する仲間がいるからだ。いずれも米山さんが所属する「大樹のグリーンツーリズムを考える会」のメンバー。


■消費者と交流

 会長の大石富一さん(45)は町内芽武の大石農産で、化学肥料を減らした「清流大根」を関東に出荷している。「大量生産、大量消費で物を捨てる時代。日本の農業が生き残っていくためには、生産者と消費者の交流しかない。生産現場を見て、食の大切さ、本物の価値を理解してもらいたい」という。同会では農家民宿など宿泊拠点を増やし、魅力ある自然と食材に富んだ大樹で、生産者と消費者の交流を広げていきたいと考えている。

 米山さんは「何でも1人で抱え込んではいけない。それぞれの個性や地域の資源を有効に活用し、連帯していくことが大切」と語る。米山さんたちの活動は周囲や行政を巻き込み、町の活性化や観光振興を推進する原動力となっている。大樹周辺の体験メニューや食材の一覧表を作り、この春からは各施設をスタンプラリー方式で紹介する事業も動き出した。

 「今、求められているのは健康、安全、自然のキーワード。南十勝は本物がうまく連携し、上川管内富良野や美瑛の大観光地にはない、『親しい人とまた訪れたい』と思わせる魅力がある」。ANAセールス&ツアーズ北海道の松岡さんは、そういって現地を後にした。(酒井花)
(04.07.30)

<大樹のグリーンツーリズムを考える会>大樹ファームステイ研究会が基盤となり、2001年、町の畜産農家や酪農家、流通、行政関係者ら幅広いメンバーが集まり発足。都会にはないゆとりと安らぎのある、農村滞在型の観光提案に力を入れている。

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