年間キャンペーン第3部

十勝に吹く風
質と豊かさの実践

上士幌・糠平


自然、歴史生かす滞在型
施設重視から脱却

■森の温泉街

 糠平の温泉街を注意深く歩くと、道沿いに添え木の付いたヤマモミジなどが多く見つかる。まだ若い木々だが、秋になれば真っ赤に色づき、観光客の目を楽しませる。同地のホテルや民宿で構成する糠平温泉旅館組合が進めてきた「森づくり」事業の“成果”だ。

 「大観光地と同じ発想では生き残れない。九州の黒川温泉を手本に個性ある温泉街を目指した」と同組合の市田雅之組合長(50)は話す。2000年に森づくりが始動したころ、道東の他の観光地との競争に敗れた糠平温泉は、施設の老朽化も進み、窮地に立たされていた。森づくりは、金のかかる施設重視の観光開発から脱却した生き残り策だった。

ホテルの敷地に植えられた樹木。森づくりの取り組みは、温泉街が木々に包まれるまで続く


 自然豊かな大雪山国立公園の懐にありながら「温泉街から緑が消え、殺風景になっていた」と市田組合長は言う。毎年秋に各旅館の敷地などに地道に木を植え続け、これまでに200本近くになった。

 「浴衣で宿の外に出て温泉街を歩いてもらいたい。シンボル的な施設でなく、散歩したくなる環境づくりが大切」と民宿山湖荘の主人蟹谷吉弘さん(42)。「木を植える金があるなら宣伝に使え」との声もあったが、今では森づくりが欠かせないテーマになった。

 温泉街では今月から道開発局による国道の歩道改修工事が進行中だが、森づくりのコンセプトが受け止められ、歩道への植樹が行われる。市田組合長は「裏通りにも木を植え、森の遊歩道に」と夢を膨らませる。

■鉄道遺産に活路

 糠平周辺には旧国鉄士幌線のアーチ橋が点在している。2001年の北海道遺産指定を機に観光資源として注目が集まり、大手旅行代理店のツアーも訪れるようになった。橋の保存・利活用の活動を展開してきたNPOひがし大雪アーチ橋友の会の角田久和事務局長(52)は「中には鉄道橋と知らないで帰る人もいる。アーチ橋観光のプログラムを提供する時期に来ている」と指摘する。

 アーチ橋観光を点から線にするためのプランが廃線跡の散策だ。環境省の事業として、糠平の鉄道資料館から糠平湖西岸の三ノ沢までの自然歩道(3・7キロ)が今秋にも整備着手を予定、ハード的な下地は整いつつある。角田事務局長は「歴史や土木遺産としての価値を伝えることで深みが出る」と、ソフト提供による滞在型観光への期待を話す。

■スロータウン構想

 上士幌町は今年度から「スロータウン構想」を推進している。観光面では通過型から滞在型への転換を掲げ、「見どころや体験などを体系的に整備したメニューをそろえるなど、手間暇をかけてもてなす」(竹中貢町長)としている。

 町観光協会の事務局を務める町産業課の関克身主査は「十勝、上士幌の日常のリズムは都会に比べるとスロー。観光客に住む人と同じ時間を疑似体験してもらうことが大事」と強調する。森の温泉街、廃線散策は、一見分かりづらい“スロー”なイメージを具現化する取り組み。多様化する観光ニーズを受け止める魅力が、糠平で生まれつつある。(古川雄介)(04.07.26)

<旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋りょう群>1987年に廃止された士幌線の鉄道遺構。36―55年に建造され、糠平湖東岸のタウシュベツ川橋りょうは「めがね橋」として有名。幌加地区の第5音更川橋りょう周辺では今夏から国道沿いの遊歩道整備が進む。


◆◇−−−−◇◆

 スローツーリズムが時代の潮流となる中、十勝でも地域固有の資産を生かした“質の観光”づくりが始まっている。年間キャンペーン「再生 とかち観光」の第3部では、そんな地域での実践を定点観測する。
 

|3-1|3-23-33-43-53-63-7index


HOME