ゆとりへの旅路
全国活性化ルポ

スローな阿蘇づくり


「ゆっくり回遊」連携し施策
広域的に交通実験

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自動車降りて

 「いまの観光は、自動車で観光地を回るファストスピードが主流。しかし、走っていては地域の本当の良さを知らないまま通り過ぎるだけ。自動車を降りてゆっくり歩けば、阿蘇の本当の魅力や素顔を楽しめる」

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 世界最大級のカルデラ地形で知られる熊本県阿蘇。一の宮町など阿蘇12町村と県が出資する財団法人で、広域的な観光振興に取り組む阿蘇地域振興デザインセンターの坂元英俊事務局長はこう強調した。

 白い噴煙を上げる火山など阿蘇5岳を中心に、豊かな自然と静かな農村が周囲に広がる。県内最大の観光地・阿蘇が2002年度から前面に打ち出しているのが「スローな阿蘇づくり」だ。

 新たな観光客の流れをつくろうと、マイカーを使わない広域的な交通実験が特色。地域内の観光資源をつなぐ循環バスを走らせ、徒歩による移動を可能にしたほか、遠隔地でも自転車で周遊できるよう、JRの列車に自転車ごと乗り込める「サイクル・トレイン」も運行した。

 実験は昨年10月と11月の6日間だったが、坂元事務局長は「利用者アンケートの結果は非常に好評。今年は1カ月に期間を延長して取り組みたい」と振り返る。

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阿蘇5岳が中央に見えるカルデラ地形。広域的な連携で観光振興を目指す

待ち受け側も工夫

 2400年の歴史を誇る阿蘇神社。近くにある一の宮町仲町商店街もスローな阿蘇の効果を受けた1つだ。交通実験では循環バス乗り場が置かれた。肉店を営む杉本真也さん(肉の鳥味屋)は説明する。

 「阿蘇神社は年40万人が参拝する。しかし、参拝者はこの商店街を素通りし、土、日曜の商店街はゴーストタウンさながら。ところがスローな阿蘇が浸透したこともあり、最近は観光客の歩く姿が明らかに増えた」

 若手商店主10人で活性化グループを組織する小規模な商店街。阿蘇が国内でも有数のわき水で知られるため、「水基(みずき)」と呼ばれるわき水飲み場を商店街に14カ所設置。観光客が散策するルートも作って魅力を加えた。

 「確かに、都会から来た忙しい観光客をスローな雰囲気に引き込むのは容易でない。それでも水基散策の観光客にはなるべく話しかけるなど、待ち受け側としても工夫し、30分間をつぶしてくれるようになった」と、同商店街の宮本博史さん(郷土料理はなびし)は笑顔を見せる。

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12町村を1つに

 阿蘇の年間観光客数は1800万人(2001年)で十勝の2倍以上を有する。観光地としては成功例とも見えるが、スローな阿蘇として新たな戦略を追求する。この背景について坂元事務局長はこう説明する。

 「従来は、同じ阿蘇地域内でも阿蘇山火口や温泉など、有名な観光地が単体として存在していただけ。阿蘇全体への経済的な波及効果がほとんどなかった。観光のために地域があるのでなく、地域の暮らしが継続できるよう観光を考えるのが重要。だから、阿蘇全体を回遊する広域連携のシステムが必要だ」

 阿蘇12町村を1つのまとまった地域に見立て、観光客が各地の農村や自然、街並みを周遊できる旅の形を提案する。「阿蘇カルデラツーリズム」と銘打った取り組みの奥深さを実感した。 (児玉匡史)(04.1.4)

<阿蘇カルデラツーリズム>阿蘇地域12町村は、阿蘇くじゅう国立公園を含む約1200平方キロ(十勝1万831平方キロ)、人口7万5000人。この地域を「小国郷」「阿蘇東部高原」「阿蘇谷」「南阿蘇」など大小6ブロックに分け、グリーンツーリズムやタウンツーリズム、エコツーリズムを展開している。

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