年間キャンペーン第2部

恵みの大地
地域の資産を考える

豊富な食材


地場の味覚を地域振興に
価値高める調理や演出


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目を疑うにぎわい

 「うまい。これは遠くまで来たかいがあった」−。東京都在住の会社員牧野昭蔵さん(58)は、目の前で打たれたそばをのどに流し込み、感嘆の声を上げた。

 帯広市街から車で40分。日曜の昼下がり、幕別町駒畠514の畑の中にポツンと立つ「そば工房・百姓(笑)庵」は、一瞬、目を疑うようなにぎわいぶりを見せていた。釧路、北見など管外ナンバーの車も目立つ。平日は農家、日曜はそば店主に早変わりする長崎勉さん(55)は「おいしいの一言が何よりもうれしい」と、そば粉まみれの手で額をぬぐう。

 父親の代から駒畠で農業を営んできた長崎さんは、小麦、ビート、ジャガイモを主栽培する十勝の典型的な畑作農家。1993年、ジャガイモ畑の一部を廃耕としたのを機に、かつて多くの農家で自家栽培していたソバを育てることにした。

 祖父母がそばを打っていた姿を思い出し、自ら挑戦。地元の“そば打ち名人”や仲間と一緒に楽しむようになった。「規模の拡大ばかりを目指す農業に『これでいいのか』という疑問があった。自分が育てた物を目の前で食べてもらい、どうせやるなら楽しく、笑いのある百姓を目指そう」と仲間4人に呼び掛け、2000年11月、「百姓(笑)庵」は開店した。

 食材は、つなぎに5%の小麦を使っただけのそばをはじめ、甘みのあるゴボウとニンジンのかき揚げなど100%駒畠産。「地産地消とかスローフード、難しい話は分からないけれど、正直な商売をしたい」が、携わる全員の思いだ。

 長崎さんは今、「プロが出すそばじゃないが、喜んで食べてくれるのは、何もない田舎の雰囲気そのものを味わっているからではないか」と思うようになった。

「目の前で打っているので、お客様も退屈せず、喜んでくれます」。笑顔でそば包丁を握る百姓(笑)庵の長崎さん(中山彩撮影)


 豊かな大地の恵みを上手に表現し、地域振興に結び付けようという動きは、十勝で徐々に高まってきている。02年に始まった「フードスタジアムとかち」は、生産者、料理人、消費者がテーブルを囲み、食談議する連続企画。調理法を含めた十勝産の演出方法を考え、十勝の食の魅力をどのように伝えるべきかを考えている。

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人が素材生かす

 昨年11月から今年2月にかけての第2回には、前回より多い和洋中の12店が参加した。同事業推進協議会副会長の長屋壮重さん(49)=ふく井ホテル取締役料理長=は「どの店も熱心で手応えを感じている」と話す。農業を基盤に、食と観光の付加価値を高めることがもう1つの狙い。「農業粗生産高の10%でも地元の食や観光に波及できたら、地域はもっと潤う」という。

 同推進協は地場産の振興や観光戦略の一環としてよく使われる「十勝ブランド」という言葉に否定的だ。「量が多く取れるから、たまたま品質の良い物があるだけ。『十勝産だから』というだけで、生産者も消費者も安心しきっている」と手厳しい。

 長屋さんは「食の安心安全は、もはや当たり前のこと。生産者は量ではなく、何を作りたいのか目的を持って生産し、調理人はその思いと消費者や観光客が何を求めているか常に考え、調理、演出する。素材を生かすも殺すも、結局は『人』なんですよ」と力を込めた。(酒井花)(04.4.13)

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