次世代ポストゲノム 

資源・知識活用し経済活性化
畑作分野で十勝が中心
北大大学院教授 松井博和氏

 道内の豊富な農林水産資源に含まれる糖質をターゲットに、脂質、生体膜、細胞工学、再生医学工学などの分野で産業構造の高度化や新産業創出を図るためのプロジェクト「次世代ポストゲノム」が動き出している。農業分野から、化石資源を除いた生物由来の有機性資源(バイオマス)の生産、転換による循環型社会の構築を提案する北大大学院農学研究科の松井博和教授(54)に、その将来性と十勝での可能性について聞いた。(和田善史郎)

 −次世代ポストゲノムの将来性について説明してほしい。

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環境企業を育成
phot

北大大学院教授 松井博和氏
<プロフィル>1949年上富良野町生まれ。72年北大農学部農芸化学科卒。74年同大大学院農学研究科修士課程修了。92年に同大農学部助教授、99年から同大大学院農学研究科教授。2003年からは同大評議員を併任。現在は多糖(でんぷんなど)の生合成と利活用に役立つ酵素を研究。

 道内にはでんぷん、セルロースなどの多くの糖質資源が存在し、北大を中心に糖質資源と細胞などの生理機能を調整する糖鎖を調べる優秀な研究グループもある。産学官連携のもと、これらの資源と知識を活用して経済の活性化に結びつけることが、次世代ポストゲノム推進の意義。道内の食料自給率をさらに高めることが可能となるばかりか、耕地以外で有効利用されていない森林、海洋資源も考え方次第で新しい製品、商品に結び付く。今後は企業家への教育のほか、持続可能な生産ができる環境企業を育てる必要がある。

 −農業分野での研究内容は。

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安全な新技術開発

 次世代ポストゲノムは「糖鎖・脂質」「医薬応用」「生物利用」の3グループで研究が進んでいる。農業に関係するのは「生物利用」で、植物を安全、安定的に育てる新技術開発を目指した「根圏プロジェクト」がその中心だ。植物の成長には窒素、リン酸、カリウムの3要素が必要だが、リン酸はあと数十年で資源が枯渇するといわれている。例えば、豆科の「ルーピン」という植物はリン酸が不足すると、土壌中にあって植物が吸収できない多くの結合型リン酸を分解し、リンを切断するためのたんぱく質を根から発生する。この仕組みが明らかになれば、リン肥料を与えなくても成長できる育種の可能性がある。さらに、食材のうち未利用の機能性物質をいかに有効に使うか、また利用するのに都合のいい資源植物を新たに生産するかが研究のポイントになってくる。

 −農業分野での今後の課題は何か。

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意識改革が最重要

 北大農学部の21世紀の研究理念は、環境に配慮した合理的なバイオマスの追究とその持続的な有効利用システムの構築。50年間の石油依存型社会から脱却し、二酸化炭素の削減につながるバイオマスを循環させるエネルギーシステムを構築するために、行政と国民の意識改革が最も重要。自治体、企業などがさまざまな研究に取り組んでいるが、地域の特性を最大限に効率よく利用できるバイオマスのシステムはほとんど出来上がっていない。意識改革とシステム構築が肝要となる。

 −十勝での将来性は。

 十勝は一次生産の分野で欧米に近い畑作農業が展開されている。一次産業を二次産業に結びつけ、いかに付加価値を高めるかが重要。一方、肥料、農薬の投入を抑え、衣食住がバイオマスからできていた昔の原点に戻る必要もある。たい肥づくりなど、進んだ科学技術を持って生産性を上げていくのが今後の一次産業。その中で北海道は魅力があり、畑作分野では十勝が中心となっていく。(03.12.09)

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 農業に新たな価値を見いだすことで、十勝の産業、教育、文化など幅広い分野にプラスアルファを生み出す−。年間キャンペーン「農プラス1」最終章は、先端技術などの研究者、実践者のインタビューから、農業というフィルターを通した“近未来”を考える。

<次世代ポストゲノム>遺伝子の配列を明らかにして医学や薬品などに利用するゲノム研究は、解読した遺伝情報に従ってできたたんぱく質の機能を調べるポストゲノム時代に移行。次世代ポストゲノムはこのたんぱくの働きで生じる糖をターゲットにあらゆる分野を網羅的に研究している。でんぷん、セルロース、海藻多糖などの道内糖質資源に加え、カラマツ間伐材、水産廃棄物などの未利用の資源も対象としており、農林水産資源に新たな価値を付加した新産業創出に注目が集まっている。

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