酪農教育ファーム 

ぬくもりに触れ「命」実感
農業者担う役割大きく

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十勝には13カ所

 「農家が生の声で伝え、消費者に農業現場を知ってもらうことが大切。1人でも多くの農業応援団を作りたい」。帯広市内でリバティヒル広瀬牧場を営む広瀬文彦さん(51)は熱っぽく語る。積極的に消費者を牧場に受け入れ、昨年度は約100組3000人を超える子供らが酪農の一端に触れた。

 搾乳や餌やりなどを通じ、牧場が持つ多面的な機能を教育現場などに活用する「酪農教育ファーム」。中央酪農会議などが推進する認証牧場は全国に167、十勝には広瀬牧場を含めて13カ所ある。

 乳搾りなどの表面的なことを体験するだけではなく、酪農の中身を理解してほしいと考えた広瀬さんは、1991年に見学室を設置。細心の注意を払う出産の様子や排出されるふん尿など、“裏の仕事”も包み隠さず説明している。「子供たちが出合う牛は市販の冷たい牛乳や牛肉。生命から生まれる温かなものだと感じてほしい」と思いを込める。

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自分の体よりも大きな牛の乳を搾る子供たち。その表情は生き生きと輝いている(市内の広瀬牧場)
 「ぬくもりに触れることで牛が『生きている』と実感し、子供たちの表情は明るく豊かになる」。酪農教育ファームの持つ“命の大切さ”という教育的効果を強調するのは、帯畜大畜産科学科助手の瀬尾哲也さん(35)だ。

 瀬尾さんと帯畜大別科2年の学生3人は今夏、道内7小学校の児童342人に酪農体験前後の牧場に対する印象を調査した。「汚れる」と答えた児童は225人から167人に減少し、「楽しい」は95人から161人に増加した。「牧場の仕事を体験して興味を持った結果、負のイメージがプラスに変化した」と瀬尾さんは分析。さらに、興味を持つことが食料の大切さに気付くきっかけになると指摘する。

消費者認識に差

 広瀬さんも「命を育てることで牛乳や肉を口にすることができる。『いただきます』には『命をいただきます』という意味もあることを子供たちに理解してほしい」と期待する。

 トレーサビリティー(追跡可能性)など食の安全に関する消費者の意識は高まる一方。生産現場を体験する“究極の信頼醸成”を望む消費者は増え、農業者が担う役割は大きくなると関係者は予測する。そこで課題となるのが料金だ。

 広瀬ファームは見学無料で、搾乳やアイス作りなどの体験料だけを徴収。だが、スタッフの配置や牛乳を飲むための紙コップを用意するなど負担は軽くない。最低限の経費をもらうことは必要とする瀬尾さんだが、「なぜ牧場で料金を払うのかという考えが消費者にあり、認識に差がある」と話す。行政や議会が体験料の補助を出している先進地・フランスの事例を挙げ、国や地域全体が酪農教育ファームの重要性を認識してほしいと願う。

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高齢者が「語りべ」

 「消費者の顔を見ながら生産することで充実感が生まれる」と笑みを浮かべる広瀬さん。高齢農業者が「語りべ」となることは、農業の活性化や経営の多角化にもつながると確信する。さまざまな可能性を持つ酪農教育ファームは、確実にその存在価値を高めている。 (池谷智仁)(03.12.02)

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