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産学官の垣根なくし成果
産業の“芽”豊富な十勝

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「雑穀パン」誕生

 「ヒエ、アワ、キビなどの雑穀は、水田の減反でやむなく転作されている作物。売れないのが農家の悩みだったが、加工して付加価値を高めた。産学官連携は行政のトップダウンではだめ」  岩手大学農学部の西澤直行教授が開発した「雑穀パン」は、県内最大スーパーから「地場産品を使った目玉商品がほしい」と持ち込まれた共同研究をきっかけに誕生。“貧しい農村”の象徴だった雑穀は肝障害や高脂血症などを抑える健康食品として人気を集め、2000年12月の発売から現在も県内30店舗で販売されている。

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「産学官連携は行政のトップダウンではだめ」と指摘する西澤教授

 県内唯一の総合大学である岩手大では新産業創出を目指し、自治体や企業、大学の有志による「INS」(岩手ネットワークシステム)が発足。事務局は情報・技術面で連携の要となる大学が受け持っている。「地熱利用」「都市デザイン」「エネルギー変換技術」など34の研究会があり、起業化を模索している。

 十勝では「INS」をモデルに昨年度、とかち財団が産学官連携組織「ヒューマンネット十勝」を設立。帯広畜産大学地域共同研究センターの岡本明治センター長は「会合の場を畜大で盛んに重ねたい。多様な研究分野の教員を取り込めば、学内の地域貢献の意識も高まる」としている。

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広がる地域連携

 「INS」からは1997年、1次産業の高度化を図る「AFR」(岩手農林研究協議会)が派生し、29の研究会が活動している。両組織の設立後は企業などが岩手大に持ち込む共同研究も活発化し、農学部の受け入れ件数は97年度の1件から翌年度は11件に増加。01年度から昨年度にかけて県内7市と相互友好協力協定も結ばれ、地域連携の輪は確実に広がっている。

 岩手大地域共同研究センターの小野寺純治助教授は「連携を円滑に進めるには、産学官の垣根をなくすべきだ。大学は技術を確立した上で、商品化のマネジメントも担える」と提案。岡本センター長も「上意下達の感がぬぐえない官と産の橋渡し役を学が担えば、垣根をなくせる。行政に頼り切りでなく、補助制度などを積極的に活用する姿勢が必要」とする。

 「雑穀パン」の発売に際しては、西澤教授自らが消費者に好まれる商品ラベル作りをスーパー側に提案し、県の財団法人「いわて産業振興センター」に協力を要請。同財団では地元の若手女性デザイナーを紹介し、1日分の報酬も補助した。

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組織ではなく人

 同センターでは来年2月、企業や技術の卵を育てるインキュベーター(ふ化)施設を設置。農業分野も受け入れる方針で、大学とのビジネス展開が期待される。雑穀パンの成功をもとに、新たな加工品の開発を前提としてベンチャー企業を立ち上げる計画もある。

 帯畜大でも、農業関連の先端技術を武器にした大学発ベンチャー構想が浮上している。岡本センター長は「産業を興すのは、組織でなく人。人的ネットワークは老朽化しないソフトウエアで、雇用も生むクリーンな公共事業になり得る。産業の芽が豊富な農業を基盤とする十勝の可能性は限りない」と確信している。(岩城由彦)(おわり)(03.06.19)

<INS>1987年ごろから始まった産学官の有志の会合が出発点で、全国でも先駆け的な存在。92年に組織化された。岩手大地域共同研究センターの支援組織で、会員数は990人。春と秋に講演会と交流会を催して人的ネットワーク作りを進めているほか、市民への公開講座などを通して科学技術の普及も促進している。

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