輸送・貯蔵技術

高品質で冷凍保存可能に
高度な加工と不可分の提案

 大消費地から遠い十勝にとって、加工と同時に重要視されるのが保存・輸送の技術だ。

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添加物使わず

 千葉県我孫子市に本社を構えるアビー(大和田哲男社長)。この会社の冷凍装置が今、流通・食品業界から注目を浴びている。「誘電CAS」と呼ぶ独自の方式で、素材の風味や香りを損なわずに急速冷凍するシステム。日本と欧米で特許を取得。5年ほど前から販売を開始した。「豊作で取れすぎた時、添加物を使わずに加工して(品質劣化なく)保存すれば、端境期に出荷できる」と大和田社長は強調する。

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“世界唯一”の技術を用いた冷凍装置のあるアビー研究室。視察者が後を絶たない

 「誘電CAS」のフリーザーが“鎮座”する同社研究室(柏市)には、多くの視察者が訪れている。大和田社長は、来訪者があるたび、冷凍庫から野菜や果物を取り出し、試食を勧める。

 生のまま冷凍したホウレンソウはその場でゆでる。焼きジャガイモは電子レンジで解凍するだけ。3年間凍らせたクリもホクホクだ。どの品物も解凍後に風味や食感が失われていない。冷凍牛乳ですら風味を保っていたのには驚く。

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ワンフローズン

 この装置が食品流通で“革命的”とされるのは、加工品も高品質で冷凍保存できる点。「ハンバーグやステーキは焼いた後に冷凍できる。北海道なら焼きトウモロコシも可能。あとは家庭や店舗でレンジ解凍するだけで、おいしく食べられる」。冷凍−解凍が1回で済み、調理の手間を極限まで省く「ワンフローズン」の可能性に大手商社も強い関心を示している。

 愛媛県のある漁協は、この装置を使って刺し身などの加工品を首都圏に出荷し業績を伸ばした。精肉店やケーキ店のほか、生酒の貯蔵に活用する例もある。臓器移植や遺伝子工学の研究にも利用されている。

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中国には輸出せず

 ただ、高性能には落とし穴もある。保存能力が高いほど、より遠い場所、つまり海外で有利に働くことがあり得るからだ。「だから中国には輸出しない」と大和田社長は言い切る。「日本の農業、水産をつぶしてはならない。原料供給だけでは輸入品に負けるが、完成加工品の価格は原料の10倍。1つのムラに1つでいい。生産者自らが自分たちの生産物を加工する工場を持ってはどうか」と訴える。この冷凍装置は、高度な加工と不可分の技術提案といえる。

 あらゆる食品が通年で流通する現状は、冷蔵・冷凍や包装、輸送の技術で支えられている。「輸送の距離や時間が長くなると、温度などの管理はより難しくなる。品質とコストをいかに許容範囲に収めるかが長距離輸送の判断基準」と食品総合研究所(茨城県つくば市)の椎名武夫流通工学研究室長(45)。

 さらに、「生産活動や加工、輸送などが環境に及ぼす影響をトータルで評価しようという考え方もある」と椎名室長。「ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)」という概念だ。農業生産の先にある加工、保存、輸送を体系的に高度化しなければ、複雑な社会の要請には応えられない。(高久佳也)(03.06.17)

<誘電CAS>冷凍庫内の磁場で水の分子を振動させ、氷点下10度前後でも凍らない「過冷却状態」をつくり、同20度以下で細胞全体を一気に冷凍する方法。細胞膜が壊れないため、アミノ酸や微量要素などの「うまみ成分」を閉じこめたままの冷凍が可能という。解凍後にドリップ(液体)がでないのが特徴。CASは「Cells Alive System(細胞が生きているシステム)」の略。

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