農家の挑戦・下

「資本」「販売」がハードル
こだわりと量産どう両立

 農家個人が生産から加工、販売までを手掛けるには、加工技術のほかに「資本」「販売」という高いハードルが立ちはだかる。

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制度適用されず

 2年前に農産物加工場「すずきっちん」(芽室町)を開設した鈴木由加さん(37)は、施設整備に約1000万円の資金を必要としたが、国や道の融資制度は適用されなかった。「将来展望が見込めない」と判断されたためだ。結局、融資を引き受けてくれたのは、地元JAしかなかった。

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家庭的な味付けで全国的に販路を広げつつある「すずきっちん」の農産物加工品

 当時、農家の加工でもグループなら交流や生きがいづくりを理由に道の補助を受けることができた。だが「加工や販売は製造業の色合いが強いとみられており、農業者個人への融資に関しては生産拡大に主な視点が置かれていた」(道農業経済課)。

 国は昨年7月、農業改良資金制度を見直し、新たな加工販売技術に対する融資枠を創設した。しかし、同課によると、道内での利用はいまだない。「道内の加工販売は、都府県に比べて遅れている。行政側も積極的に周知しないといけないが、新たな枠組みなので、まだ戸惑いがある」(同課)という。

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業者との接点不足

 言うまでもなく、販路の拡大も加工販売にとって重要だ。東京や札幌など大消費地の物産展などに出向き、取扱業者などへ積極的に商品をPRする必要があるほか、コンピューターの普及に伴い、インターネット通販も大きな“武器”となる。

 ただ、流通事情が目まぐるしく動いている現状でも、加工販売に挑戦する農家に共通した悩みは、流通、小売業者との接点の少なさ。道食品安全室では「物産展など農家が業者と出会う機会をもっと作っていきたい」と新規事業の創出を模索している。

 商取引という側面でも、難しい部分がある。企業側の営業マンは取引のプロ。それに対して農業者は商売の素人。同じ土俵に立つのは、あまりにもハンディがある。「夢がいっぱい牧場」(大樹町)の片岡文洋さん(57)はこれまで、数多くの物産展に参加してきたが、「相手企業を信用できるか、農家は分析できる目を持たないといけない」と警告する。自身、売掛金が回収できなかった苦い経験が一度ならずある。

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“落とし穴”も

 また、片岡さんは「販路拡大を目指すと、流通側から安定供給が求められる。そこで機械を入れて量産を図ると、目指していた『原点』からそれてしまう可能性もある」とアグリビジネスの“落とし穴”を指摘する。

 安心・安全志向の高まりなどを背景に、消費者が農家の加工販売に寄せる期待はむしろ大きくなっている。消費者や流通業界の厳しい要求にこたえながら、加工へのこだわりと経営安定をどう両立させていくか−。片岡さんは「その微妙なバランス調整が成功のカギを握るのでは」と話している。それは言い換えれば、成否の判断基準は農家自身の価値観によって決まるということ。加工への挑戦方法は農家の数だけある。(和田善史郎)(03.06.13)

<農業制度資金>国は昨年7月、各種制度資金を抜本的に見直した。農業改良資金(無利子)では、特定技術導入という従来の枠から新作物、流通加工分野などへの資金として整理。農業近代化資金(年利0・45−0・70%)は、施設資金に加え、長期運転資金や施設普及にも融資枠を拡大。土地利用型だった農林漁業金融公庫資金(無利子−同1・85%)はすべての農業種目に拡大。資金の取扱窓口も一元化した。

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