新加工の時代

納豆樹脂でふん尿たい肥化
実用化実験十勝でも

 納豆の糸が地球を救う−。そんな日が間もなく訪れるかもしれない。十勝でもなじみの深い大豆が、食品の枠を超え、思いもよらない「納豆樹脂」という姿で可能性を切り開いている。

 「吸水性に優れる納豆樹脂は、さまざまな用途に利用できる」。この特殊な樹脂を開発した九州大大学院の原敏夫助教授(54)は熱っぽく語る。有機廃棄物のリサイクルや砂漠緑化−使い道には意外性が満ちている。

□□−−−−−□□

高吸水性に着目
phot

納豆樹脂を手にする原助教授。左手に持つ茶色の製品は別の樹脂を混ぜた物で、実用化に向けたコストダウンの取り組みが進められている

 「なぜ納豆の糸ができるのか」。原助教授は25年前、この疑問に遺伝子レベルで答えをだそうと考えた。それが納豆研究の端緒だった。遺伝子の家系図作りや納豆の機能研究などを経て、1993年、納豆の糸に注目し、樹脂開発に着手した。

 納豆樹脂の製品は白色で粒子状。最大の特徴である高い吸水性に着目した試験が、この十勝でも取り組まれている。

 「家畜ふん尿の水分調整剤に使えないか」。十勝農協連が原助教授に声を掛けたのは99年。「九州でも焼酎(しょうちゅう)の廃液問題などがあり、廃棄物処理のモデルとしてふん尿たい肥化の実証試験を進めようと思った」(原助教授)。

□□−−−−−□□

台湾に生産拠点

 ふん尿には多くの水分が含まれる。好気発酵で良質なたい肥を作るためには、固体と液体を分離するか、麦かんなどを混ぜて水分を調整するしかない。しかし、麦かんは吸着性が悪く、水分を含むと容量が増えるという問題点がある。ふん尿に対して数%振り掛けるだけで済む納豆樹脂は、調整剤として有望な“素質”を持つ。

 同年、中札内村や新得町、帯広市の酪農家で実証試験を実施。「冬でも内部は固まらなかった」と農家が驚くほど、水分調整の効果があった。しかし、「価格が高く、事業化に至らなかった」と原助教授。コストダウンが実用化への宿題として浮上した。

 単価を下げるため、生産拠点を台湾に置いた。効率的に納豆の糸を入手できるよう、アミノ酸(たんぱく質を構成する物質)と納豆菌を水中で混ぜ、大豆と同じ状況を再現する液体培養の手法も確立。別の樹脂を混ぜることで精製の手間も軽減した。

 だが、今年2月に清水町で新しい樹脂を使ってみたところ、ふん尿が凍ってしまった。同時期に佐賀県で実施した試験は成功しており、厳寒地の冬でも通用する品質の確保が課題となった。十勝農協連の須田孝雄酪農課長(50)は「まだ確実な評価ができる段階ではないが、試験は続けていきたい」と今後の進展を見守る。

□□−−−−−□□

夢の砂漠緑化も

 「高品質で適正価格の製品を作ることができれば応用範囲は広がる」と原助教授は今年3月、納豆樹脂の製造や販売などを手掛ける大学発のベンチャー企業を設立、年内にも化粧品の増粘剤として供給を予定している。

 さらに、究極の目標もある。それは「納豆樹脂を使った砂漠緑化」だ。栄養分を含む海などのヘドロと植物の種子を納豆樹脂と混和し、砂漠や乾燥地帯に散布する計画。大量の水を吸着できる納豆樹脂ならではの活用法といえる。「いずれは水と二酸化炭素に分解されるこの樹脂は、これからの時代の要請にこたえられる」。納豆の一筋の糸が、加工という作業を経て、役割を広げようとしている。(池谷智仁)(03.06.09)

□□−−−−−□□

 農業生産から経済効果や雇用などのプラスアルファを引き出すには、加工という作業を避けては通れない。特に“農業立国”十勝では、加工の重要性は永遠の課題とも言える。年間キャンペーン「農プラス1」第3部では、全国各地の先進例を参考に、農業を活用した新たな加工産業の方向性を探る。

<納豆樹脂>納豆の糸から作られる樹脂。糸の成分であるポリグルタミン酸を水に溶かして放射線(ガンマ線)を当て、ゲル状になったものを脱水、粉砕する。自重の1000−2000倍の水を吸収する力や環境に優しい生分解性、形を変化できる可塑性という特徴も併せ持つ。

|1|index


HOME