生き残りにかける
全国自治体に学ぶ

まちのかたち 変わる地方自治=5=

福井県小浜市


食のまちづくり
“地の利”生かして条例制定
観光産業育成、環境保全へ

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 福井県のJR敦賀駅から各駅停車の車両に乗り込み、電化工事が進行中のJR小浜線を西へと向かう。約1時間揺られると列車は「食のまちづくり」を標ぼうした小浜市に滑り込んだ。

歴史、文化に根差し

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天然の良港に恵まれ、海と陸をつなぐ拠点としての歴史を持つ小浜市

 「朝廷に食材を提供する御食国(みけつくに)は、国内に淡路、伊勢志摩と並んで3カ所。しかも小浜は朝廷の料理人、今で言えば宮内庁の料理長というべき膳臣(かしわでのおみ)が治めたところ。地域づくりは歴史、文化に根差したもので、と考えたんです」

 2000年8月就任の村上利夫市長(69)が小浜のまれな地の利を説明する。

 食のまちづくり構想を具体化し、持続的に展開するための裏付けが「食のまちづくり条例」。01年2月15日に市民代表を含めた11人の委員で構成する起草委員会が6回の会合を経てまとめた市民協働の条例。9月定例市議会で可決された。

 「日本一のまちづくり」を標ぼうする村上市長が説明を続ける。「観光面などの関連産業はもちろん、豊かな環境を守ることにもつながる。3度の食事をきちんと取ることは、健康、福祉にもつながるし、恵みに対する感謝の気持ちを醸成する食育にも結びつく。ほとんどの分野に関連する」

 目に見えた変化が表れるのには時間がかかるようだが「新年度予算では中高生を対象に食をテーマにした講演会の開催も検討している」(まちづくり推進室の吉岡和広さん)など、芽が出始めた。

 市街をぶらつくと、飲食店などの「鯖(さば)ずし」「小鯛のささ漬け」といった看板が競い合う。産業は観光が核だが、かつて100万人を誇った観光客入り込み数は2000年度に76万3000人に落ち込み、取材に訪れたのが昨年末の師走といった季節柄か、観光客の姿もまばらだ。

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お金のない長男

 駅前商店街で「サッポロラーメン」の看板を掲げる女性店主(64)は時折、調理の手を止めながら、市内に2つあった大手電機メーカー工場の撤退や、リストラについて説明した。「だから小浜は観光で生き抜いていくしかない」と食のまちづくりに沈滞ムード打破の期待をかける。

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 「さしずめ小浜はおとなしくてお金のない長男。原発が立地する近隣のマチは、いいところからお嫁さんをもらった弟たち」。食のまちづくりについて聞いていくうちに市民のこんな表現に出くわした。

 若狭湾は原子力発電所の高度密集地域。「弟」たちである近隣自治体・大飯町、高浜町、美浜町が施設を誘致し、固定資産税収入で交付税の不交付団体として潤っていくのに比較し(美浜町は現在交付団体)、小浜市は立地の選択をせず「お金のない長男」になっていったというのである。

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立ち遅れに危機感

 条例の起草委員を務めた保険・不動産業の三木尚さん(47)も郷土の立ち遅れを憂うひとり。「小浜は北前船の寄港地として繁栄をおう歌し、外部と交流せずに食っていけるほど裕福だった。ところが交通が発達する時代になって何もしなかったため気がついたら、このままでは誇りの持てないマチになってしまうと危機感を抱くようになった」

 原発立地という選択はマチを即、潤すに違いない。しかし「食」のまちづくりの標ぼうは間接的にそれを拒否する意思表示ともとれる。村上市長は「別問題」と関連性については否定するが、“名家”が示した生き残り策の今後が気になった。
(年間キャンペーン取材班=井上猛)(02.1.8)

<食のまちづくり>
 条例は「身土不二」「地産地消」といった言葉も盛り込まれた前文と、8章33条からなる。市民、事業者の基本原則、滞在者の基本原則なども盛り込まれている。03年に開催される若狭路博に向け、キッチンスタジアムなどを備えた食の拠点施設を小浜港に面する県有地に16億円で建設予定。また12の小学校区ごとに食のまちづくりに沿った地区振興計画策定の支援や、作詞家の秋元康さんら50人の御食国大使を委嘱。01年3月の市民憲章にも「水と魚や野菜が一番うまいまち」と高らかに宣言している。

福井県小浜市
 <小浜市>人口3万3000人。市内に130の寺が点在し「海のある奈良」とも呼ばれる。2001年市制50周年を迎えた。若狭ガレイ、若狭グジ(甘ダイ)など豊富な海産物で有名。若狭塗りばしは日本一の生産量を誇る。

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