埼玉県上尾市 −上−

◇マチ二分の論争傷跡いえず◇

住民投票で合併拒否

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 東京都上野駅から電車で40分。埼玉県上尾市の上尾駅背後には、大きなマンションの建設が進んでいた。
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住民投票前、双方の主張を伝えようと数多く作製されたチラシ

 「上尾の人は“上尾都民”と呼ばれるほど都心通勤者が多い。それが、さいたま市との合併問題で地元意識が強まった」
 上尾商工会議所の赤坂稔専務理事(59)は、昨年7月29日に実施した全国初の条例に基づく住民投票前後を振り返った。

“吸収合併”を拒否

 上尾市は1996年、浦和、大宮、与野の旧3市(昨年5月にさいたま市に合併)と伊奈町の4市1町での、政令都市移行を前提とした合併論議を提起した。しかし「浦和と大宮の主導権争い」と言われる駆け引きから、「政令都市移行までに、上尾と伊奈の意向を確認する」との合意を付け加えたものの、旧3市の合併が先行。結局、上尾市は住民投票の結果、さいたま市との合併を拒んだ。
 「旧3市先行では、ある意味“吸収合併”。上尾らしさを失うことが市民にとって良いことなのか」(総合政策課)と、反対姿勢を鮮明にした新井弘治上尾市長に対し、行政主導で進むことを懸念した若手経済人や議員ら推進派が、市長から意思決定を取り戻す手段として選択したのが住民投票だった。

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市の姿勢を批判

 市議会(32人)は、最大会派の分裂という混乱を招きながら、住民投票条例を可決。投票の結果は、推進派の思惑がはずれ、合併反対が得票の58・25%の6万2382票、賛成が41・74%の4万4700票。投票率は64・48%と、近年の他のどの選挙よりも高かった。
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 投票から約1年。市民からは「今のままでよいとは思わないが、合併して町はずれになるのは賛成できない」「合併で役所が遠くなれば大変」との声が多く聞かれた。
 しかし、合併推進派だった人たちは今でも「結果は正しくなかった。投票自体、不公平な運営をされた」(深山英孝市議会議長)と不満をぶつける。投票前、新井市長は反対派グループの街頭演説に立ち、市の広報などは「合併反対」を前面に出した内容。市内の弁護士は「行政は公正でなければいけなかったのに」と、市の姿勢を批判し続ける。

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混乱がシコリ残す

 住民投票で、新たなまちづくりへの一歩を踏み出したはずの上尾市。だが、住民条例をめぐる混乱がシコリとなり、議会は助役人事を否決するなど理事者との緊張感を引きずったままだ。新井弘治市長は今年に入り周辺に「昨年は任期4年分を1年で過ごしたようだ」と繰り返している。赤坂専務の言葉とは裏腹に、マチを二分した賛否の論争は、深い溝を残していた。 (岩谷真宏)(02.7.8)


 <メモ>上尾市は、人口21万5637人(7月1日現在)、面積46平方キロメートル。今年度当初予算は、全会計で約901億4000万円(一般会計約498億円)。さいたま市は人口約105万人で、2市の人口比は十勝なら帯広市と幕別町などの比率に近い。


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