長野県山口村 −上−

◇村民の総意で「信州」から「美濃」へ◇

感情的な対立残し協議会進行

 山の斜面に沿った全長1キロ余り続く石畳。両わきには江戸時代の古いたたずまいをした黒い板塀の民宿やみやげ物屋が並ぶ。「江戸時代の旅人になった気分で心が休まる場所。でも、もうここも信州じゃなくなるんだ」。6月中旬、長野県山口村の「馬籠宿」に、栃木県から初めて観光で訪れた老夫婦は寂しげに言った。

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「信州の藤村」の生誕地で有名な馬籠宿は、年間70万人も訪れる大観光地。越県合併すれば、「美濃(岐阜県)の藤村」の里になる

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県を越えた合併へ

 馬籠宿は江戸時代、中山道の宿場として栄えたほか、明治の文豪・島崎藤村の生誕地で、小説「夜明け前」の舞台にもなった。現在は宿場の特性を生かし、年間70万人が訪れる観光のまち。山口村は4月、岐阜県中津川市へ編入合併することを表明した。「信州に未練がないといえばうそになる。むしろ単独で生き残ることができるなら、そうしたい。ただ、財政面が立ちゆかず、もはや合併は避けて通れない」。加藤出村長(64)は村長室のいすに座り、苦痛の表情を浮かべ語った。
 全国の市町村と同様、歳入の55%を国からの地方交付金に頼っている。同金は年々先細りになり、3年後には支給のピークだった2001年度より2億円ほど減る見込み。齊藤信広・総務課長(44)は「村の貯金も数年後には底をつく。たとえ村税を倍にしてもカバーできない」と説明する。

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中津川市と合併が77%

 山口村は当初、合併問題では県内の木曽郡11町村と調査研究を進めてきた。木曽郡町村会が音頭を取り、昨年11月に合併ワーキンググループを発足、研修会や討議会などを開催、合併を模索してきた。
 だが、16歳以上の全村民対象に、昨年12月実施した「合併に関するアンケート」の結果(回収率82・9%)で方向転換した。「合併するなら中津川市」との回答が77%にも上ったからだ。

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生活に身近な岐阜県

 県境に位置する山口村民にとって、生活する上で身近なのは岐阜県側。中津川市まで車で15分とかからない。逆に、木曽郡の中心、東北部の木曽福島町までは1時間弱かかる。「サラリーマンの9割、高校生の半数以上が岐阜県に通っている。特に中津川市への割合は高い」と齊藤課長。運転免許やパスポート取得・更新などは木曽福島町まで行かなければならず、村民からは「半日がかりの移動で不便」との声が多く聞かれた。
 村は6月7日、2004年10月の合併を目指し、中津川市と合併協議会を立ち上げた。木曽郡のワーキンググループから近く脱退する。「もう後戻りはできない。便宜上、編入の形を取るが、気持ちは対等で合併を進めたい」。加藤村長は自信を示す。  信州の歴史ある山口村は、アンケート結果による「村民の総意」を盾に、中津川市との合併に突き進んでいる。(佐藤いづみ)(02.7.3)


 <メモ>山口村は人口2059人。中津川市は人口5万4902人で、山口村のほか、岐阜県内恵北地区6町村との合併も視野に入れ、人口8万5000人都市を目指している。都道府県をまたぎ、合併し新たに市をつくる場合は地方自治法第6条に基づき特別法を策定、国会の承認が必要となる。さらにその法律を作るためには憲法95条により「住民投票を行い、過半数の賛成が必要」。山口村と中津川市の合併が成立すれば、「昭和の大合併」と言われた1959年以来、7例目になる。


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